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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

「………………」

 今日の夕方、匠海は電話をくれ、メールもくれていた。

 だが、ヴィヴィはそれらに対して、一度も返事をしなかった。

「ヴィヴィ?」

 エッジカバーを外し、乾いた布で磨き始めたヴィヴィに、匠海が少し気遣わし気に呼んでくる。

 悪いとは思っている。

 2日前まで自殺願望のあった妹を、兄は兄なりに気遣ってくれている事も解ってはいる。

 けれど、

(……返事……なんて……。一度しちゃったら、なんか、続けなきゃいけない、気がして……)

 自分は一週間後には英国へ戻る。

 その後、もし匠海から連絡があった場合、

 ヴィヴィはそれに対してコンタクトを取りたくなかった。

 そして、

 渡英した途端、兄からの連絡が途絶えるという経験も、したくはなくて。

「……電話にデンワ~……☎」

 何とか誤魔化そうと、ダジャレを口にしたヴィヴィ。

 広いリビングに、15秒ほどしんとした時が流れ。

「――で、話があるんだけど?」

 何事も無かった様に話を進める匠海に、

(……スルー、したな……?)

 ヴィヴィは白いスケート靴相手に、白い目を向けた。

「水曜日から、匠斗とこっちに泊まるからな?」

 夕方、義姉から聞いた情報を繰り返す兄に、

「……知ってる……」

 ヴィヴィは視線も向けずに、ぶっきらぼうに返した。

「そうか」

「それだけ……?」

 靴を磨き終えたヴィヴィが、ソファーから立ち上がりながら尋ねれば、

「ああ」

 兄の穏やかな相槌が返って来た。 

(そ、それだけの為に、わざわざ来たの……? メールで、済むじゃない……)

 返信はしないけれど、送られたメールに目を通す事くらいするつもりだった。

 少々呆れながら、ウォークインクローゼットに入ったヴィヴィ。

 きしりと革が軋む音がし、次いで聞こえてきた、静かな足音。

 靴を陰干しし、母に言われた通り、就寝準備を始めたヴィヴィに、

「あと、ヴィクトリアの顔を見に来た」

 クローゼットの戸口に立った匠海が、さらりとそんな言葉を投げて寄越す。

「………………」

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