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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

「あ、じゃ、なかった。ヴィヴィの顔を見に来た」

 何故かそう言い直した匠海に、

「あ、そう。じゃあ見たんだし、もう帰ったほうがいいよ」

 もう23時を回る、一般的には深夜に近い時間だ。

 つっけんどんな物言いで、そう助言すれば、

「ん? ああ、匠斗はもう寝ているから、急いで帰る必要は皆無だよ」

「………………」

 妻帯者とは思えない返事を寄越す匠海に、ヴィヴィの小さな顔が微かに曇った。

 確かに、幼児の匠斗は もう起きてはいないだろうが。

( “奥さん” が、待ってるでしょうが……)

 そんな言葉など口にしたい筈が無く。

「私、今からマムとお風呂に入るの」

 だから、とっとと自分の家に戻って下さい。

「へえ? 珍しい。ふ、賑やかそうだな?」

 興味深そうな声を上げた匠海に、とどめを刺してやろうと、ヴィヴィは続ける。

「その後、ダッドも一緒に、川の字になって寝るんだって、だから――」

「えっ!? 何だ、それ。狡い。俺も交ぜろっ」

 予想外の大きな反応をした匠海に、

「……はぁ……?」

 ヴィヴィはさすがに、戸口に凭れ掛かった兄を振り返る。

 何が狡いのだ?

 どこに交ざりたい要素があるのだ?

 21歳の自分でも、遠慮したいシチュエーション。

 27歳の匠海が、嬉しい筈が無いと思うのだが?

 ていうか、

 何でそんなにスーツ姿が素敵なのだ、この男は――!

 焦って視線を反らそうとするヴィヴィに、

「俺も混ぜて、||||の字にすればいいじゃないか」

「そ、そんな漢字 無いもんっ」

 それに、いくらキングサイズのベッドでも、大人4人が寝るのは厳しいと思うが。

「じゃあ、Шの字でも可」

 譲歩(?)する匠海に、

「~~っ だ、誰が下の_の字になるの!?」

 ヴィヴィがそう突っ込めば、

「う~~ん、ヴィヴィかな?」

 そんな予想通りの返事が返ってきた。

「やだっ みんなの枕にされるじゃないっ」

 何だか不毛なやり取りになって来ている事に、気付いたヴィヴィ。

「もう、私行くから。お兄ちゃんも家、帰りなよ」

「はいはい。じゃあ、おやすみ。ヴィク――ヴィヴィ」

 大げさに広い肩を落として見せた匠海は、そう言い置いて帰って行った。





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