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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
本当に最後の最後。
右太ももと腰を支えていたクリスの手が離れ、そのまま床にずり落ちたヴィヴィ。
横から黒スーツの腰と脚に両腕を絡ませて、フィニッシュとなった。
「うわぁ~~っ 生タンゴ、初めて見た!」
「きゃ~~っ♡ 凄い凄いっ」
「エ、エロいなあ……」
物凄い歓声と拍手が送られる中、主役の羽生は立ち上がり、盛大な拍手で双子のタンゴを湛えてくれた。
まるで自分を捨てた男に追い縋った状態のヴィヴィを、クリスが紳士的なリードで抱き起してくれる。
双子は弾んだ息の中、周りに対して礼を送り。
そしてヴィヴィは、自分の腰を抱いている双子の兄を、ちらりと仰ぎ見る。
黒ハットの下のクリスの表情はもう、いつも通り無表情だけれど。
「………………」
(……クリス……超、エロかった……)
ヴィヴィは周りに微笑みを振り撒きながらも、薄い胸の中、そう驚嘆の声を上げていたのだった。
『だから、なんで来れないのよっ!?』
電話先のジュリアンは、先程から同じ質問ばかりを繰り返していた。
7月3日(月)の夕刻。
クリスはとうに、仙台から松濤の篠宮邸に辿り着いていて。
なのに一緒に帰宅しなかった娘に、母はおかんむりで電話を寄越したのだ。
「私、ロンドンの屋敷には、月に2回は行ってるし、エディンバラの屋敷も、年に数回行ってるもん」
ヴィヴィも、何度も同じ返事を繰り返す。
ジュリアンは5分前から
『夏に自分達夫婦と匠海夫婦とその子供とで、ロンドンとエディンバラに滞在するから、ヴィヴィも同行しろ』
と電話口で主張していたが、ヴィヴィとしてはそんな話を呑む訳にはいかなくて。
『そういう問題じゃないでしょ? 家族みんなが揃うんだから、ヴィヴィも来いって言ってるの!』
「……クリスは「行く」って言ってるじゃない。私は、いいよ」
『良くないわよ! ねえ、ヴィヴィどうして……? なんで私達と会いたがらないの?』
電話越しに伝わってくる、寂しさを滲ませた母の当惑に、
「そうじゃない、そうじゃないってば……」
ヴィヴィは鈍い胸の痛みを抱えながら、なんとか言葉を絞り出す。