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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

 手を引かれてエレベーターを降り向かった先は、やはりと言うか何と言うか、

 アセットマネジメント部 投資戦略室、で。
 
 だだっ広いフロアを見渡したヴィヴィは、瞬時に父の目的を悟ってしまった。

(なんでそんなにスタイル良いんだよおすぐ目に付いちゃうじゃないかこのやろお)

 お昼時で人はまばらだが、9頭身の匠海は異様に目立っていて。

「お~~い、匠海~~」

 一瞬、ここが会社である事を忘れてしまいそうな、間延びした声で息子を呼ぶグループCEOにも、

 居合わせた30名くらいの国際色豊かな社員達は、にこやかに見ているだけ。

(もしかして、いっつもこんな感じなのかな、ダッドってば……)

 娘として心配になっていると、呼ばれた匠海は長過ぎる脚ですぐに父娘へと近付いて来た。

「あれ、ヴィヴィ。珍しいな、会社に来るなんて」

(ブルーのシャツに紺のニットタイだとどんだけ爽やかなんだまったく可愛いじゃないかこのやろお)

 心の中の声の唸りとは正反対に、ヴィヴィは「う、うん……」と頷くだけで。

 不思議そうに父に視線を移した息子に、

「私とランチデート♡ だもんね~? ヴィヴィは」

 白い太ベルトを巻いた細腰を抱き寄せたグレコリーは、金色のポニーテールにちゅっとキスを落とし、

 何故か息子に、娘とのいちゃいちゃぶりを見せ付けていた。

「デート……」

 ぼそりと呟いた匠海に、

「匠海もヴィヴィとデート♡ したいだろう?」

 「ふふん」と鼻で笑いながら煽る父に、

「したいです」

 きっぱり即答した匠海は、何故か真顔だった。

(なっ 何言ってんの、この人……っ!?)

 度肝を抜かれ、わたわたするヴィヴィを余所に、グレコリーは満足そうに嗤い、

「だ~~め~~」

 そんな、人を喰った返事を投げる。

「匠海は2日間も、ヴィヴィを拉致してたんだからね。ダッドは拗ねてるんですっ」

 据わった目で長男を睨む父親は、やっと意趣返しが出来たと、どこか誇らしげで。

「「………………」」

 大の大人で大企業の代表とは思えぬ父に、息子と娘は呆れ顔を浮かべていた。

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