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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

「じゃあね~~! さあ、ヴィヴィ。ダッドと美味しいもの食べようねえ♡」

 父に肩を抱かれ、大人しく出て行こうとすると、

「あ、ヴィヴィ」

 思い出した様に発した匠海に、呼び止められた。

「ん?」

 ちらりと振り返った先、匠海が切れ長の瞳を細めていて、

「その服、凄く似合ってる。清楚でヘルシーで、素敵だ」

「……――っ」

 まさかの賛辞に首から上が、ぼんっと赤く火照ったヴィヴィ。

「~~っ ダッド、行こっ!」

 父の背中を押しながら、ヴィヴィは先を急がせた。

「おやおや、ヴィヴィ照れちゃって。もう、可愛いなあ~~♡」

 押されるままエレベーターホールへ移動する父は、そう娘をからかっていた。

「~~~っ」

(似合ってるだなんて清楚だなんてヘルシーだなんて何で言うんだよこのやろお)

 すぐに到着したエレベーターに乗り込みながら、ヴィヴィは小さな頭の中で兄を責め。

 そして、

(てか……、素敵……なんて、は、初めて言われた~~っ!!!)

 そんな喜んでいるとしか思えない雄叫びを、上げていたのだった。








 グレコリーが連れて行ってくれたのは、表参道の本社から歩いて行ける、福井県の素材を扱った料理店だった。

 幻のエビ “ガサえび” の卵が、目の覚めるような青色だったこと。

 若狭ぐじの一夜干しも、十割蕎麦も絶品で、満腹のヴィヴィは大満足だった。

「ダッド、ご馳走様でした。えへへ~、すっごく美味しかった。幸せ~~♡」

 小さな顔を緩みきってお礼を口にする娘に、父は「ああ、もうやっぱり可愛い」と店先で抱き締めてきて。

「まじでやめて下さい」

 そこは冷たく突き放すヴィヴィなのであった。

「13:30か。帰って何するんだい?」

 サマースーツの袖を押さえ、腕時計を確認する父に、

「うん。速攻帰って、陸トレ」

 ヴィヴィは気合の漲った声で答える。

「え?」

「の後は、23時までずっと氷上だね」

 ジャンプの微調整に、ステップの確認。

 双子ショー限定で披露する、エキシビの振付。

 今季のSP・FS・EXの滑り込み。

 やることは山ほどあった。

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