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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
「ヴィヴィ、無理だけはするんじゃないよ? 身体を壊しては、元も子もないんだからね?」
娘の焦っている様子が伝わったのか、父はそう念押ししてきたが。
(いや……ダッドのおかげで寝不足……。ま、いいけど……)
「解ってる。ありがと」
そう素直に頷いたのだった。
その10時間後――
(何で “ここ” にいるかなあ……?)
昨夜に引き続き、妹の私室で踏ん反り返っている(ようにヴィヴィには見える)匠海に、薄い唇からあからさまな嘆息が零れた。
時刻は月曜日の23:30。
9頭身に纏っている服も、昼に見たものと同じで。
(家……ちゃんと、帰ってるの……?)
妹がしなくてもいい心配をしながら、五十嵐に荷物を預けると、
昨夜と同様、兄を避けるように白革のL字ソファーの隅に腰掛けながら、スケート靴を磨き始めた。
ブレードやエッジの傷の有無、ビスの緩み、靴紐の劣化をチェックする妹に、
「ランチ、何食べさせて貰った?」
匠海は当たり障りのない質問ばかりを投げてきて。
「……ナマコ……」
ぼそりと呟いた数秒後、「おぇ……っ」と匠海が餌付く声が届き。
(してやったり……)
本当は匠海の唯一苦手なそれを、食べてなどいなかったヴィヴィは、スケート靴を見つめながら心の中でほくそ笑んだ。
「そ、それだけじゃないだろう?」
珍しくどもりながらも先を促す兄に、ヴィヴィは薄い唇から “宇宙人撃退の呪文” を唱え始める。
「……ナマコ酢……焼きナマコ……干しナマコと筍の炒め……ナマコの松前漬……干しナマコの佃煮……」
「解かった分かった、帰るから」
妹の手厳しい攻撃に耐えかね、匠海は革を軋ませながら立ち上がった。
「ヴィヴィの顔が見たかっただけだ。そんなに怒るな」
少し拗ねた物言いで言い募る兄に、
「……昼……」
昼に会社で会った――と、端折り過ぎな返事を返す妹。
「ああ、会社で素敵なヴィヴィを拝ませて貰ったけれど。やはりゆっくり、愛らしい顔を傍で見たいよ」
「………………」