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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
深夜1時を回ったリンク。
そこに響き渡るのは、男性合唱とオーケストラの音色。
そして、氷を削る1人分のエッジの音。
2回転アクセルを着氷した右脚のまま、踏み切るループジャンプ。
セカンドジャンプの着氷がぐらつき、その勢いのままリンクサイドへ戻りながら、頭の中では緻密に計算する。
成否を決定付けるのは、ほんの些細な違い。
確かに映像分析は優れていて、ヴィヴィも頼りにしているが。
その一方、どうしても自分の勘が、最優先されるのもジャンプだった。
緊張と焦り、様々な感情に囚われる試合に置いて、最後に縋れるのは己の感覚。
それを強みに出来るかどうかは、反復練習するしかない。
流れ続ける音源の再生ボタンを押し直したヴィヴィ。
急いでリンク中央へと戻り、静かなオーケストラとラテン語で歌われる合唱に乗せ、滑り始める。
1年ぶりにタッグを組んだ、日本人振付師の宮田。
彼が全勢力を注ぎ込んで作り上げてくれたFSで、ヴィヴィは自身初となる、歌詞入りの曲に挑戦する。
開始から25秒後に飛び上がる、2回転アクセルは、試合では3回転アクセルで。
その後、15秒後に踏み切る、2回転アクセル+2回転ループも、同様に3回転+3回転の予定だ。
――今は疲労困憊なので、2回転でタイミングだけ確認しているが。
その流れだけを、何度も何度も繰り返して練習し。
しかし、1時間半経った頃には、さすがのヴィヴィも疲れ果ててしまった。
(まあ、でも、良い感じでは、あるかな……)
小さな手応えを感じつつ、氷から降り。
だだっ広いリンクアリーナの照明を落としたヴィヴィは、フィットネスルームで いつもよりしつこく身体を労り。
軽くシャワーで汗を流した後に向かったのは、数あるミーティーングルームの一室だった。