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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

「ああ、ヴィヴィ。お腹が空いたんだろう?」

「え? あ、うん……」

 兄の指摘に「もしや、お兄ちゃんがディナーを預かって来てくれた?」と、察したヴィヴィ。

 空腹なので「まあ、それでも可」――とばかりに、匠海から夕食を預かろうと両手を出せば。

「ん? お弁当は無いぞ?」

「…………はぁ…………?」

 まさかの兄の返答に、ヴィヴィは少々イラっとしながら問い直す。

(じゃあ何しに来たんだこのやろ蒸し暑いのにばっちしキメやがってくそお)

 白シャツの襟元に巻かれたのは、爽やかなピンクとグレーのストライプ・ネクタイ。

 さらりと羽織った紺のジャケットの胸元には、薄紅色のチーフが嫌味無く刺され。

 ライトグレーの細身パンツには、焦茶色のベルトと靴が、アクセントとして効いていた。

 最近 “心の声” が汚い言葉遣いになっているのにも気付かず、ヴィヴィは胡乱な瞳で兄を見返す。

 スケート靴の分だけ匠海との身長差が無くなり、今日は何だかいけそうな気がした(エロ詩吟では無い)。

「ヴィヴィをディナーに誘いに来た」

 やっと本題を口にした兄を、

「行きません」

 妹は瞬殺で退けた。

「どうして? お腹空いてるんだろう?」

 不思議そうに見返してくる匠海に、ヴィヴィはもう色々諦めた。

「空いてるけど。もう、カフェテリアで何か食べるもんっ」

「あんな炭水化物ばっかり摂ったら、太るぞ?」

 確かに。

 リンクに併設のカフェのメニューと言えば、

 アメリカンドッグにピザ、パスタ、カレーと、炭水化物と脂質のオンパレードだった(一般客向けなので)

「う、五月蠅いもんっ」

 図星を刺されたヴィヴィは、空腹が募るにつれて苛立ちも募っていき。

 舞と達樹の前という事も忘れ、匠海に突っかかっていた。

 けれど、

「舞ちゃん、知ってるかい?」

 何故か舞に矛先をずらした匠海に、

「何ですか?」

 大きな黒い瞳を更に大きくした舞が、氷上で首を傾げる。

「この子は本当に困った子でね? この年でもう、ナマが大好きなんだよ」

 匠海の発した言葉に、

「え? ナマですか?」

 舞がきょとんと聞き返す。

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