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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

「ク、クリーニングして、返すから……」

 幾ら “借りた状態の服” とはいえ、ヴィヴィとて そんなにも恩知らずではない。

 さすがにショップに返却は出来ないだろうが、着る前と同じ状態にして兄に返すつもりだった。

 なのに、匠海ときたら、

「いや、そのままでいい」

「え?」

「ヴィクトリアの……ヴィヴィの香りが、付いてるのが欲しい」

 そんなまさかの要求をする兄に、

「へ、変態……っ」

 それ以外に返す言葉があったと言うのなら、どうぞメールでも何でも送り、教えて欲しいものだ。

(ま、まさかと思うけれど、「ヌー○ラも返せ」とは、言わないよね……?)

「ああ、変態でいいよ。ほら、服くれないと脱がせるぞ?」

 もう開き直っているとしか思えない匠海に、ヴィヴィは数歩後ずさり、

「ひ……っ!? ま、待って、き、着替えてくるからぁ~~っ!!」

 フランス語で絶叫しながら、一目散にウォークイン・クローゼットへと逃げて行ったのだった。

「もうっ 信じらんない……っ!」

 ぶつぶつ独り言を洩らしながら、黒ワンピを脱ぐ。

 もうバスを使って寝るだけなので、適当なルームウェアに袖を通したヴィヴィは、返す服を丁寧にたたみ。

 クローゼットにあった紙袋に入れて、匠海へと返した。

「ありがとう。今夜は沢山ヴィヴィと話せて、凄く楽しかったよ」

「………………」

 紙袋を受け取り、やっと白革のソファーから腰を上げた匠海。

「また、付き合ってくれるね?」

 見下ろしながら微笑んでくる兄に、妹はツーンという効果音が似合う仕草でそっぽを向いた。

「…………やなこった」

「あはは。可愛いヴィクトリア。今夜はちゃんと、ベッドで寝るんだよ?」

「…………ふんだ」

 どうやら兄は、リンクで母が言っていた、

『ってか、この子、昨晩ここに泊まって練習してたらしくて。とっととご飯食べさせて、ベッドに寝かせ付けて頂戴!』

 という言葉を覚えていたらしい。

「おやすみ、良い夢を」

 そんな就寝の挨拶を寄越す兄に、

「…………とっととお帰り下さい」

 妹はそんな つれない返事で送り出したのだった。

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