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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

 8月9日(水)――日本滞在4日目。

 この日の篠宮邸は、珍しく賑やかだった。

 朝練から戻ったヴィヴィは1時間、白砂と防音室で楽しみ。 

 ランチを挟んでまた、飽きもせずに防音室で過ごしていた。

 白砂 今(こん)。

 そう、ヴィヴィの楽器の元講師の、その人と。

 ヴィヴィのピアノ伴奏に乗せ、ヴァイオリンを鳴らせる白砂。

 ピアノとの二重奏の場合、グランドピアノの前にヴァイオリン奏者が背を向けて立ち、各々楽譜を見ながら奏でるのが常だが。

 白砂はとにかく、ヴィヴィを見つめながら弾いてくる。

 入りのタイミングや溜めたいところ、唄いたいところが判るのはありがたいが。

 如何せん、あまりに色気ムンムンでこちらを見つめられても、たまに困る。

 何せ白砂は、かの韓国俳優 ○ン様似のイケメン、でして。

(ちょっと……照れマス……)

 ラスト4小節。

 まるでやまびこの様に、同じ旋律を繰り返す白砂に、ヴィヴィが軽やかに片手で鍵盤を弾き。

 そして、タンゴらしい切れ味良い余韻を残しフィニッシュすれば、黒縁眼鏡越しの茶色の瞳が、気持ち良さそうに細められた。

「やっぱり、今先生の、好き~~っ♡」

 鍵盤に這わせていた両手を胸の前で組みながら、ヴィヴィが感嘆の声を上げる。

 2人が奏でたのは、Por una Cabeza(ポウ・ウナ・カベサ)。

 今季のSPで使用する、タンゴの曲だ。

 タイトルの意味は、「首の差で」。

 歌詞が存在するのだが、その内容は、

 競馬でわずかの差で負けた競走馬を引き合いに出しながら、恋の駆け引きにわずかの差で敗れた男の心境が描かれている。

「ん? 俺の事が好きって?」

 どこか甘い眼差しで、問うてくる白砂に、

「ち、違いますっ 今先生のヴァイオリンが、です」

 ヴィヴィは椅子から伸び上がりながら、間違いを訂正する。

「だから “ヴァイオリンを弾いてる俺” が好きなんだろう?」



―――――

※Por una Cabeza
 作曲:カルロス・ガルデル。
 2011-2012 宮原知子選手のSPだね~

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