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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
顔を近付けてきた白砂の黒髪が触れそうになり、ヴィヴィは腰を引きながら軽く睨み上げる。
「~~~っ もうっ」
初対面の3年前からずっと、ヴィヴィをおちょくっては楽しんでいる白砂は、1年3ヶ月ぶりでも全然変わりなく。
「今先生、髪伸びましたね。そのまま伸ばすんですか?」
かねても、サイドの髪が耳を隠すくらいの長さだったが、
それより更に伸びたサイドの髪を、前髪と一緒に後ろで一括りにしていて。
「似合わない?」
こめかみの後れ毛を、後ろに撫で付けながら尋ねられ、
「めちゃくちゃ似合ってますけど、前の “爽やかモドキ” も捨てがたいです」
そう馬鹿正直に答えたヴィヴィ。
白砂の黒髪は真っ直ぐでサラサラなので、少々長めでも清潔感はあった。
いやそれどころか、妙な色気が増した気がするのは、気のせいだろうか。
「モドキってなんだよ? トカゲモドキ や すっぽんモドキ じゃないんだから」
まるで新種の生物扱いされた白砂は、五分袖のデニムシャツの肩を下げながらぼやいていた。
「あ、先生、先生」
突然思い立った様に連呼するヴィヴィに、商売道具をテーブルに置いた白砂が振り返る。
「どした?」
「あの、今年のクリスマスイブって、予定入ってます?」
ワンピのポケットからスマホを取り出したヴィヴィが、操りながら尋ねれば、
「え? 何それ。俺をデートに誘ってくれるの?」
速攻からかってくる白砂に、眉尻を下げたヴィヴィは金の頭を横に振った。
毎年、クリスマスあたりの木曜日から日曜日は、全日本選手権が開催される。
そのラストを飾るメダリスト・オン・アイスは、生演奏を売りにしたショー。
ヴィヴィは今年のその舞台で、出来れば白砂の演奏する『Por una Cabeza』を滑りたいと思っていた。
――今は8月頭なので、大分気が早い話だが。
「そりゃあ、光栄だな。ぜひ演奏したい」
2年前(五輪シーズン)のショーでは、白砂と箏奏者の中居 智弥に、エキシビションナンバー『花のように』を演奏して貰った。
それ以来となる久しぶりの競演に、白砂も俄然やる気が出たみたいで。