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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
眼鏡の奥の茶色の瞳が、アーティストとしての輝きに充ち溢れる様子に、ヴィヴィの瞳も知らぬ間に緩んでいた。
「まあ、私も……。エキシビに出られる程、上位に喰い込める保証も、無いんですけどねえ」
自分で言い出したくせに、弱気な事を呟くヴィヴィに、
「それ、イヤミ?」
瞳を眇めた白砂が、意地悪してくる。
確かにヴィヴィが2位以下に転落したのなんて、あの悪夢のミュンヘン五輪・個人戦くらいで。
「え? ち、違いますよっ スポーツなんで、何があるか解らないって事です」
故障や病気、不調など。
アスリートはいつ何時、それまでのベストパフォーマンスを生み出していた身体を、失うか分からない。
「ふうん。じゃあ、今シーズンは “俺と共演する事を最大目標” に励むこと! いいね?」
ピアノの椅子に座ったままの元生徒。
その細く高い鼻先をちょんと突いた白砂は、その指をびしっとヴィヴィに向けて命令してきた。
トップスケーターのシーズン中の最終目標といえば、
グランプリ・ファイナルでの金 もしくは 世界選手権での金――が通常で。
けれどそうではなく「自分とショーで共演する事を目標にしろ」とけしかける白砂に、ヴィヴィは破顔した。
「あははっ じゃあ、めっちゃ頑張りますっ」
昨シーズンの “黒ヴィヴィ様” からは想像出来ない、屈託の無い笑顔。
それをしばらく見つめていた白砂は、
「ヴィヴィ、今夜、呑みに行かない?」
そんな誘いを掛けて来た。
「あ~~、夜はリンク、行くんですよね」
この後15:00から、スケジュールびっちりのヴィヴィは、申し訳無さそうに説明したが。
「ん~、そっか。何時に終わる?」
「ええと……23時くらい?」
(昨日はお兄ちゃんのせいで、19時上がりになっちゃったし……)
微かに首を傾けながら答えたヴィヴィに、
「じゃあ迎えに行くから、飲みに行こう」
そう再び、誘い文句を口にした白砂。
「えっと……?」
やや強引な誘いに戸惑うヴィヴィの小指に、長い小指が引っ掛けられ、
「約束な?」
にやっと笑った白砂に、ヴィヴィは「はあ……」としか返せなかった。