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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
『ふん。その第一関門を俺が精査しているだけですよ。
“春出しの馬 押さえがきかず” の鼻息荒いどこぞの馬に、
俺の可愛い妹が、みすみす奪われるのを見ている趣味はないんでね』
匠海は先程、確かにそう言って白砂を牽制していた。
それはきっと、売り言葉に買い言葉もあり、全てが本心という訳では無いのだろうが。
たった2杯のカクテルで酔い始めたヴィヴィは、兄の言葉をストレートに受け止めていた。
どうして実兄に、恋人候補を値踏みされねばならない?
どうして元恋人に、次の恋の邪魔をされねばならない?
どうして匠海は――
「お待たせ致しました。ロングアイランド・アイスティーです」
暗闇しか彷徨えない思考を断ち切ったのは、バーテンダーの声と、コースターに置かれたロングカクテルだった。
「……ありがとう、ございます……」
まるで白昼夢から醒めたかのように、長い睫毛をぱちぱち瞬かせたヴィヴィ。
目の前のカクテルが、その名の通り紅茶色をしている事に安心し、勢い良く呑んでみれば、確かに紅茶の味に近い気がした。
かなり甘いけれど。
何だか咽喉が渇いて、惰性でずるずるストローを咥えて呑んでいると、
「お客様。レディー・キラー・カクテルをご存知ですか?」
静かな声音で問うてきたバーテンダーに、金色の頭がこてと倒れる。
先程 目を通していたリストには、そんな名のカクテルは無かった筈だが。
「優しい口当たりで女性でも飲み易いけれど、実はアルコール度数が高いカクテルの総称です」
バーテンダーの説明に、ヴィヴィは興味深そうに頷く。
レディー・キラー・カクテル。
男性がバーで女性を口説く際、それをオーダーすれば女性は知らぬ内に酔い、男性は断然 “お持ち帰り” し易くなるのだろう。
「例えば、こちらや、こちら……ですね」
紳士なバーテンダーは、カクテル・リストを取り出すと、指で示してくれる。
スクリュー・ドライバー
シーブリーズ
カルーア・ミルク
モスコー・ミュール
セックス・オン・ザ・ビーチ
ビトウィーン・ザ・シーツ
そして、
ロングアイランド・アイスティー