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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
「……あ……」
図らずも自分で、レディー・キラー・カクテルをオーダーしてしまったヴィヴィ。
「やっちゃった……」
ぺろっと小さく舌を出したヴィヴィに、バーテンダーは目を細め「美味しいですからね」とフォローしてくれた。
(成程ねえ。色々と社会勉強になったな、今日は……)
未だ呑み比べを続けている男2人の間、ヴィヴィはしみじみとチェイサーを飲み下しながら、頭と身体を冷やし落ち着ける。
自分の飲酒経験といえば、オックスフォードでのBBQ時のビールに、カレッジ・ディナーでのワイン。
試合後のバンケットで、乾杯のシャンパンを口にするくらいで。
確かに、無知の状態で男にこんな洒落たバーに連れて来られたら、イチコロかも知れない。
色々と気を付けようと思ったその時、金色の頭がぴょこんと上がり、
「あ……、オスカー・ピーターソン」
バーに流れ始めたBGMに、敏感に反応する。
たった2小節のイントロで気付いてしまう、その感性はもちろん、JAZZおたくの父・グレコリーの “英才教育の賜物” である事は間違いない。
「ええ。Younger Than Springtime ですね」
先ほどのバーテンダーが、男2人のテキーラをショットグラスに継ぎながら、微笑んできて。
「やっぱり、いい~♡」
素晴らしい音響設備で流されると、聞き慣れた曲が更に鮮やかに蘇えり。
「 “グレイト・コネクション” がお好きだと、前に何かの雑誌で読みまして」
ショットグラスを供し終えたバーテンダーのその言葉に、小さな顔がにんまりとする。
「はい♡」
好きな音楽を聞かれた時、ヴィヴィが一番最初に挙げるのが、
オスカー・ピーターソン・トリオ のアルバム “グレイト・コネクション”。
1971年に発表されたもので、彼が46歳の時の演奏を収録している。
「50年代60年代の、絶頂期のオスカーも捨てがたいですが」
「この頃は40歳代前半の円熟期を迎えてて、最も脂が乗っていた時期ですよねっ」
バーテンダーの言葉を受け継ぎ、ヴィヴィが今日一番滑らかな口調で続ける。