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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
「篠宮様は、どのナンバーが一番お気に召しましたか?」
「全部っ でも、どれか1つと言われたら、ん~~、Just Squeeze Me? あ~、でもでも、Younger Than Springtimeも捨てがたいぃ~~っ」
大好きなJAZZに浸ったヴィヴィは酒の力も手伝い、灰色の瞳を潤ませながら うっとりと零す。
「分かります。Just Squeeze Me、あのスローのイントロからの倍テンポ。ブルージーに変容を遂げて行く様は圧巻ですね」
「超ファンキーですよねっ!!」
金色の頭を激しく首肯し、同意するヴィヴィ。
「お兄さんは? えっと、タジリさんは、どれが好きですか?」
バーテンダーの黒ベストの胸に光る、金のネームプレートのローマ字を読み取り、ヴィヴィは尋ね返す。
「Soft Windsですね。あの「指、何本あるんです?」と尋ねたくなる分厚いハーモニー、外せませんね」
「わかりますぅ~~♡」
両指を細い顎の前で組んだヴィヴィは、まるでバーテンダーに恋しているかの如き、熱い視線を向けていた。
実際は、ジャズ・ピアノの黒人名匠に心酔し、うっとりしているだけだったが。
「……おやおや」
「我々が言い合っている間に、トンビに油揚げ かっさわれましたね」
匠海と白砂の声が、両サイドから届いて来て。
「…………? お兄ちゃんは、あれだよね?」
ヴィヴィと同じく、JAZZ好きの匠海に話を振れば、
「On The Trail?」
「一時期、ずぅ~~と弾いてたもんね?」
匠海の発した曲名に、ヴィヴィは うんうん頷く。
「へえ、それは是非にお聴きしてみたい」
ヴァイオリニストでもありピアノの講師も務める白砂は、途端に興味深そうな瞳を匠海に向ける。
「男に聴かせる趣味は、ありませんが?」
テキーラを飲んでおきながら、全く顔色の変わらない匠海の返しに、
「なにお~~? 可愛くない」
ふっかけた方の白砂はといえば、若干 頬が紅潮していた。
「だから、男に「可愛い」と思われて、どうするんです?」
「ふん」と鼻で嗤いながら退ける匠海に、
「あ゛~~、ああ言えばこう言うっ」
どこか愉しそうにぼやいた白砂は、何故か立ち上がり。
どうやら、パウダールームへと行ってしまったようだ。