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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

 兄妹を乗せたタクシーが篠宮邸の車寄せに回されたのは、日付が変わって1時間経った頃だった。

 精算を済ませた兄は、自分の肩に凭れ掛かり熟睡する妹を、いとも簡単に横抱きして車から降ろした。

「お帰りなさいませ」

 玄関ホールの扉を開け放った五十嵐に、匠海が頷いて中に入って行く。

「お嬢様、だいぶお飲みになられたのですか?」

 階段を上がり始めた主に、静かな声で問うてくる執事。

「そんなには。たぶん、練習疲れが出たのだと思う。匠斗は?」

 飲酒していても しっかりした足取りで、階上へと昇っていく匠海の問いに、

「匠斗様は、ご主人様方と就寝なされました」

 少し可笑しそうな五十嵐の返事に、匠海の唇からも「ふっ」と笑いが漏れる。

 3階に辿り着き、妹のリビングの扉を開けた執事に、

「今夜は遅くなって悪かったね。この子は明日も5時起きだろうし、俺は……そうだな、6時半くらいに起こしてくれ」

 言外に「もう下がっていい」と滲ませた主に、五十嵐は「畏まりました」とすぐに引き下がり。

「おやすみ、五十嵐」

「お休みなさいませ」

 就寝の挨拶を交わした主従は、そこで別れ、

 妹を横抱きしたままの長い脚が、何の躊躇も無く寝室へと踏み込んで行った。






 幾重にも重ねられた羽枕の上、上半身を凭せ掛けられた時になって、ヴィヴィはやっと眠りから覚めた。

 うっすらと開いた目蓋の隙間から見えたのは、匠海が纏っていた紺色に白ドッドのシャツの肩。

 何故かすぐに目蓋を閉じ直したヴィヴィ。

 兄にされるがまま、キングサイズのベッドの隅、

 ワンピから伸びる両脚を投げ出して座り込んでいた。
 
 自分の傍のスプリングが沈んだと思った途端、

 両の頬に感じたのは、暖かな掌に包み込まれる感触。

 そして、額に押し当てられた柔らかな唇から、吐き出されたのは、

「ヴィクトリア……」

 熱っぽく自分の名を呼ぶ、兄の声。

 両頬を親指の腹で撫でられ。

 かと思えば、おでこ、鼻の頭、目元と、軽く押し当てられるだけの唇の感触。

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