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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章
「好きだ……」
耳元で囁かれるのは、親愛の情を形作る言葉。
薄い下唇の中心を、指で撫でられ、
けれど、
それは吸い付かれる事無く、執拗に辿られるだけ。
「俺 以外、見ないで……」
弱々しい懇願はするものの、だからといって、それ以上何かをする訳でも無い。
「はぁ……」
金の髪がわだかまった細い首元に顔を埋め、苦しそうに洩らされる吐息は、
火傷しそうなほど熱いのに。
「……ん……」
思わず薄紅色の唇から、洩れてしまった吐息。
ここで目を覚まさないと、不自然な気がして。
薄っすらと目蓋を開けたヴィヴィ。
ベッドサイドのランプだけが灯る薄暗い寝室にも、少し眩しそうに緩慢な瞬きを繰り返す。
「ああ、ごめん。起こしたね」
そう囁いた匠海は、すぐに妹から掌を退け、
先程までの餓えを滲ませた表情の上に、強引に兄の仮面を被ってしまった。
「……おにぃ、ちゃん……?」
寝起きの為か、潤んだ灰色の瞳を向けるヴィヴィに、微笑を湛えた匠海が問い掛ける。
「ヴィヴィ。気分、悪くないか?」
「……あつぃ……」
シフォンのシャツワンピの襟を掻き毟り、苦しそうに眉を潜めた妹に、
「ああ、待ちなさい。開けてやる」
細い手を解いた兄は、黒い襟を留める小さなボタンを慎重に解いていく。
ぷちんぷちんと微かな音がする度に、少しずつ外気に触れる肌の表面積が増えて。
空調の効いた涼やかな空気に柔肌を撫でられ、思わず薄い唇から吐息が漏れる。
「ん……」
シャツワンピタイプのそれは、裾までずらりとボタンが配されていて。
けれど兄の手は、ボタンを3つだけ開け、そこで止まった。
降ろしたままの長い髪が、肌に張り付くのが嫌で、
むずがるように顔を背けたヴィヴィ。
開かれた襟元から露わになった真っ白な首筋は、
確実に匠海の視線に触れた筈なのに。
「……水、持ってくるな」
静かな声で言い置いた兄は、腰掛けていたベッドから立ち上がり、
妹から離れ、寝室を出て行った。