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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第4章     

 しばらくし、戻って来た匠海の手には、宣言通りのペットボトルの水と、濡れタオルがあって。

「ほら、飲んだらすっきりするぞ?」

 キャップを外し、手渡されたペットボトル。

 その透明な液体を目にした途端、強烈な渇きが襲ってきて。

 勢い良く、ごくごくと咽喉を鳴らせながら飲み始めたヴィヴィ。

 しかし、それが悪かった。

 酔いが回っているのか、力加減が狂い。

 唇の隅から零れ落ちたミネラルウォーターが、ぼとぼととそこから降り注いだ。

 薄いシフォンを濡らした水は、ピンクベージュの生地を肌に張り付かせ。

 そして、

 顎を伝い垂れた水滴は、ぽとぽとと胸元へと滴り落ちていく。

 妙に火照った身体には、その冷たい感触は心地良く、

 無意識に、ほぅと吐息を漏らした途端、
 
 細い顎に感じたのは、温かくぬめった感触。

 思わず、ぴくりと震えたヴィヴィ。

 けれど、匠海は無心に水滴を舐め取っていた。

 顎から首筋へ。

 首筋か首元へ。

 そして、

 微かに水が溜まっていた、鎖骨の窪み。
 
 そこを じゅっと音を立てて吸い上げられれば、

 金色の頭は仰け反り、羽枕へと沈み込む。

「~~~っ」

 黒い両襟を掴んで押し開げた匠海は、更にその奥も目指してくる。

 白く肌理細やかな肌を味わうように蠢く、熱い舌。 

 もう水滴を舐め取る当初の目的を逸脱し、愛撫に成り果てたその行為。

 濡れてなんかいない、耳元に舌を這わし始めた兄に、とうとう妹は我慢出来なくなり、

「ふぁ……っ んんっ」

 細い咽喉から漏れた、明確な喘ぎ。

 それを耳にした途端、自分を貪っていた匠海の広い肩が、びくりと大きく戦慄き、

「……ああ、悪い……。ごめん、な……」

 まるで悪夢から覚めたかの如く、ぱっと妹から身体を離してしまった。

「……もっと飲むか? 今度は、零さないように――」

 何事も無かったかのように、ペットボトルを差し出してくるその手は、

 次の瞬間、ぺしっと軽い音を立てて はたかれていた。
 
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