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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章    

「うんとこしょ どっこいしょ

 まだ まだ かぶは ぬけません」

 甥を乗せた胡坐を揺らしながら、情感豊かに絵本を読み上げる五十嵐と、

「まんま~」

 そう意味の分からぬ合いの手を入れる匠斗。

 興味の湧いたヴィヴィは、2人に気付かれぬ様にそおっと、足音を殺しながら近付いて行く。

「ねこは いぬを ひっぱって

 いぬは まごむすめを ひっぱって

 まごむすめは おばあさんを ひっぱって」

 よおく見ると、五十嵐はいつも纏っている黒スーツのジャケットを脱ぎ、その上から白のエプロンをしていて。

 しかもその白エプロンが、新妻に似合いそうな片紐のところにフリルがある可愛らしいもので。 

「おばあさんは おじいさんを ひっぱって、

 おじいさんは かぶを ひっぱって……。

 ほうら、匠斗様、行きますよ~?」

 そこでちっこい匠斗の顔を、横から覗き込む五十嵐。

「うんとこしょ どっこいしょ」

「まんま~」

「うんとこしょ どっこいしょ」

「まんま~っ」

「どうしても かぶは ぬけません」

「まんま~っ!」

 どんどんヒートアップしていく、甥の合いの手に、

「ぷ……っ くっくっくっ あはははっ!」

 とうとう我慢出来なくなったヴィヴィは、腹を抱えて笑ってしまった。

「お、お嬢様! お帰りなさいませ」

 やっとヴィヴィの存在に気付き、焦った様子で立ち上がろうとする五十嵐に、

「だ、大丈夫、匠斗の相手、してあげて。……くっくっくっ」

 片手を翳して止めたヴィヴィは、尚も笑いが止まらず。

 しばらく2人の様子を眺めていると、

「五十嵐さん、瞳子様から匠斗様宛に、お電話が入っています」

 メイドが、タブレット端末を手に入室して来て。

「お嬢様、お帰りなさいませ」

 まさかヴィヴィが、この場にいると思わなかったのだろう。

 そのメイドは、うっかりヴィヴィの存在を、電話口の相手へと伝えてしまった。

『え? あら、ヴィヴィちゃん、ご在宅なの?』

 そう向こうから尋ねられてしまったら、ヴィヴィとて電話に出ない訳にはいかない。

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