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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章    

 嘆息を零しながら、今度こそライブラリーを辞去しようとしたヴィヴィ。

 ちらりと甥を一瞥すれば、こちらに背を向けた匠斗は、何故か硬直していて。

「……ん……?」

 板張りの床にあんよを投げ出したその子は、微動だにせず、斜め上の方向をただ じ~~と見つめているようで。

 不思議に思ったヴィヴィは、足音を殺しながらその背後に回り込む。

 しゃがみこんで、小さな黒い頭が見上げている角度に視線を凝らすが、そこには壁しかない。

 けれど、当の匠斗は「じ~~~~~」という効果音が付きそうなほど、無心に壁を凝視していて。

(……? 何を見てるんだろう……?)

 しばらく、そうやって匠斗の後ろにいたヴィヴィ。

 しかし、

「~~~っ!?」

 何故か絶句したヴィヴィの灰色の瞳は、限界まで見開かれる。


 も、もしかして、アレ?

 ペットや赤ちゃんだけが、視る事が出来るとかいう……っ


(ひぃいいいい~~っ)

 心の中で絶叫を挙げたヴィヴィは、ばっと立ち上がり、脱兎の如くソファーの置いてある場所へと飛んで行く。

「悪霊退散、悪霊退散……っ」

 ぶつぶつ意味不明な文句を呟きながら、クッションを頭に乗せて隠れるヴィヴィに、

「あはは。幼子には、よくある事なのですよ」

 白エプロン姿の五十嵐が、一部始終を見つめ、笑って説明してきた

「そ、そうなの?」

 恐々 振り返った主に、

「ええ。ちなみにお嬢様も、1歳くらいの頃、たまにあらぬ方向を見つめ、硬直されていたことがありました」

 そう衝撃の事実を突き付けてきた執事に、小さな顔にとんでもなく悲壮な表情が浮かび上がる。

「……うそぉ~~っ」

 きっと五十嵐は安心させるつもりだったのだろうが、ビビりなヴィヴィには逆効果だった。

(わ、私って、もしかして霊感あったり、す、る……? ひぃ~~、いらないいらないっ)

 ぞぉ~~と、背筋に悪寒を感じながらも、恐る恐る匠斗に視線を戻せば、

 くるりとこちらを振り返った甥が、今度はヴィヴィをじ~~~と見つめてきて。

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