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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章
全25曲からなる、壮大な組曲『カルミナ・ブラーナ』。
“全てのものは運命に支配され、運命の女神の持つ車輪の前に服従せねばならぬ”
この世の諸行無常への嘆きと、運命の偉大さを表している。
「前半の『Fortune plango vulnera ―運命に傷付けられ―』では
“運命に振り回される人間” を。
後半の『O Fortuna ―おお、運命の女神よ―』では
“運命の女神” を演じるんですね?」
振付師の言葉を的確に捉え、ヴィヴィが続けると。
「そうだ。でも、今のヴィヴィでは 前半も後半も “運命に振り回される人間” を滑っているように見えてしまう」
宮田の容赦無い評価に、ヴィヴィの表情は曇り「……はい……」と蚊の鳴くような声で返事をする。
確かに。
前半も後半も、歌詞は “運命に翻弄される人間” 目線で描かれている為、ヴィヴィはどうしてもその歌詞に引きずられてしまい。
天と地、そして永遠さえも司る “運命の女神” を、己に取り込む事が不得手だった。
「解かるね? 運命に振り回されて悲嘆に暮れるばかりじゃなく、「自分が総てを支配する」毅然とした孤高の滑り――それを目指すんだ」
宮田の言い分はもっともだ。
何処の誰が、運命に翻弄されるばかりの情けない人間の滑り――などを見たいものか。
「はい。えっと、もう一度、後半の入りから見て貰えますか?」
引き締まった表情で滑り始めたヴィヴィに、宮田はそのすぐ傍を並走しながら、細かな手直しを施していったのだった。
夜遅くまで付き合ってくれた宮田は、この後は用事があるとの事で。
「では、次はロンドンで。クリスも宮田先生に会えるの、すっごく楽しみにしてましたよ~」
後20日後に英国2都市で行われる、双子主催のアイスショー Twinkle ICE。
そのオープニング・エンディング等の振付も、宮田にお願いしていた。
「そうだよなあ~~」と、感慨深げに両腕を組んだその人。
「ちっちゃな頃から見てきた双子が、もう自分達のショーを持つなんてなあ~。素晴らしいものに出来るよう、俺も出来る限りの力を尽くすよ」
そんな頼もしい言葉をくれた振付師との再会を誓い、ヴィヴィは帰途へ着いた。