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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章
白いシーツの真ん中。
肩から茶のローブを引っ掛けただけの兄が寝そべり。
ヴィヴィは何の躊躇も無く、その腰の上に馬乗りになる。
その時になってやっと、兄の両腕を拘束していない事に気付き、
ベッドの隅に掛かっていた、ローブの紐を拾い上げた。
しかし、それが向かった先は手首では無く、
寝ころんだまま自分を見上げてくる、切れ長の瞳で。
「……ヴィクトリア……?」
若干 戸惑い気味の兄は無視し、ヴィヴィは出触りの良い茶の紐を側頭部で縛り、完全に目隠しをしてしまった。
「私の顔なんか、見たくも無いんでしょう?」
紐に挟まっていた黒髪を整えてやりながら、思わず零れた問い掛けを、
「そんな訳、あるか」
匠海はそう、すぐに打ち消したけれど。
「血の繋がった妹……。昔遊んで捨てた女……。見たくも無いか」
自分自身を追い込む為に、自虐的になっていく妹を、
兄は今度は哀しげな声で押し留める。
「馬鹿。自分の事を、そんな風に言うな」
そんな風に言うな?
だって、お兄ちゃんは、
私が要らなくなったから、捨てたんでしょう?
「……そうね。私に抱かれながら、お姉さんのことでも、思い浮かべてれば?」
「………………」
「ふ……、図星? もうセックスレスなの? 飽きられるの、早くない?」
次いで薄い唇から洩れたのは、微かな嘲笑。
瞳子さんと、していないの?
だから、
お兄ちゃんは今更、私に来たの?
それとも――
「ねえ? それとも、
お兄ちゃんがお姉さんに、飽きちゃったのかな?」
ねえ?
やっぱり私じゃないと、駄目だった?
ねえ。
お願い……。
嘘でもいいから、そう言――
「ヴィクトリア、よしなさい」
兄が窘めたその言葉には、怒気は滲んでいなかったけれど。
それが余計に惨めで。
勝手に独り相撲をして自滅していく自分に、ヴィヴィは小さな顔をくしゃりと歪めた。
「…………ごめん。
私には、関係の無いことだった」
大きな瞳にじんわりと滲んだ涙。
そうじゃない。
兄が自分を見たく無いんじゃなくて、
自分が見られたく無いんだ。
捨てられた兄に、未だに欲情している自分を、見られたく無いのだ。