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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章
「……ヴィクトリア……」
名残惜しそうに抱擁を緩めた匠海から、素早く逃れ、離れたヴィヴィ。
震える両脚を叱咤しながら、高いベッドから滑り降りると、
「ご苦労様」
昨夜と同じセリフと一瞥を与え、そのまま自分の寝室を後にした。
煌々と灯りに照らされたバスルーム。
ヴィヴィはそこで、ナイトウェアの上から、自分の躰を抱き締めていた。
暖かかった。
逞しくて、途轍もなく、心地良くて。
ついつい自分の立場も忘れ、甘えん坊全開で、兄に身を任せてしまった。
最愛の男の腕の中。
それが気持ち良いのは、当たり前の事で。
でもそれは、もう自分のものではない。
兄の妻のもの。
兄の子のもの。
「………………」
あの時、どうやっても手放さなくてはならなかったもの。
その大きさを噛み締めながら、纏ったままだった薄水色のナイトウェアを脱ぎ。
シャワーノズルをひねり、顔からぬるい湯を浴びる。
忘れてしまえ。
記憶に留めたとしても、それは自分を苦しませるだけ。
先程のは、そう。
“運命の女神” が気紛れに観せた “ゆめまぼろし” にしか過ぎない――。
O Fortuna,
おお 運命の女神
velut luna statu variabilis,
お前は移ろう月の如き 絶えず姿を変え――
semper crescis aut decrescis;
満ち欠けを繰り返す
vita detestabilis
情け容赦無い 忌むべき世界
nunc obdurate et tunc curat
気まぐれに喜びを与え 人の心を弄び
ludo mentis aciem;egestatem, potestatem,
貧乏 も 権力 も
dissolvit ut glaciem.
氷のように 溶かしてしまう
小さな頭の中に過ぎったのは『カルミナ・ブラーナ』の代表曲。
“O Fortuna ―おお 運命の女神よ―” の一節。