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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章    

 しかし、「え~~」と不満の声を上げ拗ね始めたグレコリーに、面倒臭くなったヴィヴィ。

「……はいはい」

 可愛くない声を上げながら椅子から立つと、父の傍へ寄り、

 シンプルな水色ミニワンピの裾を気遣いながら腰を屈め、グレコリーの柔らかなハグを受けた。

「ああ、可愛い♡ 怖いなら今夜、また川の字で寝るかい?」

 父のお誘いに、帰国初日の悪夢を思い出した娘は「結構です……」と速攻断ったのだった。

 自分の席に戻れば、目の前の匠海と目が会って。

「ヴィヴィはよく、BSTで怖い話を聴いては、夜 寝れなくなって。で、翌朝 気付いたら、俺のベッドに潜り込んでたなあ?」

「……10年も前の話、持ち出さないで……」

 懐かしそうに瞳を細める兄を、妹は顎に梅干しをこさえながら窘めたのだった。

 肉厚な鱧寿司を食べ終わった頃には、もうお腹一杯で。

 五十嵐に「もう、水菓子だけでいい」と伝えていた、その時。

「び」

 だだっ広いダイニングに、高く小さな声が響き。

「ん? なあに、匠斗~?」

 ミルクを飲み終えた孫を、ジュリアンが目尻を下げながら覗き込む。

 すると、また「び」という短い音が、可愛らしい唇から洩れて。

「び……? 何が言いたいんだろう?」

 首を捻る匠海に、

「匠斗~♡ “び” が、どうしたんだい~?」

 ぷにぷにほっぺを突きながら、あやす父。

 ヴィヴィも出されたほうじ茶を飲みながら、皆の様子を眺めていたが、

「……び~」

 母の腕の中、今度は短い両腕を、テーブルの方へ伸ばし始めた匠斗。

「ビール?」と、父が。

「まっさかぁ~」と、母が。

「だとしたら、篠宮家の “酒呑み遺伝子” 恐るべし……」と、ヴィヴィが。

 けれどまた「び」と呟く匠斗。

 しかし今度は、それだけではなくて。

「あれ? もしかして、ヴィヴィのことじゃないか?」

 グレコリーがそう指摘した理由は、匠斗がまた、ヴィヴィを指差していたから――で。

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