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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章
また1輪摘まんだ兄は、その薫りを確かめながら続ける。
「それで名前を聞いたら “夜に来る香り(夜来香)” って言うんだ。絶対に気に入ると思ってね」
「………………」
花屋。
一目惚れ。
匠海の説明を聞きようやく納得したヴィヴィは、ほうと浅い息を吐き出した。
“誤解” だったのか。
ただの “偶然” だったのか。
「……ごめん、なさい……」
早とちりをしてしまった事に対し、自分でも驚くほど素直な謝罪の言葉が、口をついて出ていた。
「何が?」
手にしていた薔薇で鼻を擽ってくる匠海に、ヴィヴィはその手から奪い取る。
「……いい香り……」
深みのあるブルーローズに、爽やかな柑橘系のベルガモットが滲むそれは甘過ぎず、好みの香りで。
「気に入ってくれた?」
微かに首を傾げてくる兄に、こくりと頷いて見せれば、
「良かった」
そう囁いて、切れ長の瞳を細める仕草に胸が高鳴る。
「……ありが、と……」
花束を貰った行為は嬉しくて、礼を口にすれば、
「どういたしまして」
くしゃりと笑った兄。
ここ数日で、一番可愛らしい返事を寄越す妹に腕を伸ばすと、金色の頭をなでなでしてきた。
頭を撫でられるのは好き。
後頭部を、大きな掌で包み込まれる様に撫でられるのは、特に。
しばらくうっとりと、されるがままになっていたヴィヴィ。
しかし、
「でも、もうプレゼント、いらない」
そう釘を刺すのも忘れなかった。
「え゛~~」
不服そうな声を上げる匠海に、ヴィヴィはつ~んとそっぽを向く。
「贈り物はいらない」と言っているのに、贈ってくるからこんな誤解を招いたのだ。
だからもう、いらない。
すぐ隣でくっくっくっと笑う兄に、むににと唇を引き結ぶ妹。
深く息を吸い込めば、胸一杯に夜来香の薫りが広がり。
うっとりと目蓋を閉じたこめかみに、濡れた前髪から水滴が伝い落ちる。
そこに指の感触を感じて。
額に張り付いた前髪を脇へと除けてくる兄の指を、しばらくは大人しく受け流していた。