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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第5章    

 けれど、

 微かに身じろぎした気配を感じ、ゆっくりと目蓋を上げれば、

 バスタブの傍に跪いた匠海の顔が、己へと近付いて来ていて。

 唇と唇。

 互いが重なり合う直前、

 ヴィヴィはすっと後ろに身を引いた。

「キス……したい」

 切れ長の瞳を、切なく歪めた匠海の懇願に、

「……だ、め……」

 ヴィヴィは灰色の瞳を湯面に彷徨わせるも、受け入れる事は無い。

「ヴィクトリア……」

 兄の躰は必要だけれど、心の繋がりは求めない。

 頑なに初心を貫かんとするヴィヴィに、匠海はそれ以上は求めて来なかった。

 白いバスタブの縁に頬杖を突きながら、また金色の頭を撫で始めた兄。

「………………」

(ていうか……私、すっぽんぽん だった……)

 大きな掌の下、ヴィヴィはようやく、置かれた状況を把握し始める。

 薄紫に近い藤色の薔薇が浮かんでいるとはいえ、透明な湯に沈んだ自分は、当たり前だが素っ裸で。

 つい1週間前迄。

 オックスフォード近隣のヴィラで、匠海に2泊3日も抱かれていたのに。

 それ以降、ヴィヴィは兄の前で全裸を晒す事は無かった。

 自業自得で陥ったこの状況とはいえ、さすがに恥ずかしくなり始めたヴィヴィ。

 しかも目の前の匠海は、全く以て余裕そうなのが気に入らない。

 左手で水を掻き、勢い良く兄めがけて振り抜けば、

 ばしゃりと派手な音を立て、目の前の美しい顔に湯が命中した。

「~~~っ!? この、じゃじゃ馬がっ」

 結構な量の湯をかけられた匠海が、黒髪や鼻顎から ぼたぼた水を滴らせ、唸ってくるが、

「ふんだ、いい気味。勝手に頭を撫でた罰よ」

 細めた瞳の下、べっと舌を出してやる。

(そもそも、レディーのバスルームに、無断で入って来るなぁ~!)

「悪戯っ子め。罰としてキスするぞ?」

 恨めしそうに濡れた前髪を掻き上げながら、ずいっと身を乗り出してくる兄に、

「……“嫌い” になるわよ?」

 細い眉を跳ね上げ、そんな脅しを掛ける妹。

「ふうん? まだ “嫌い” じゃなかったんだ?」

「~~~っ “もっと嫌い” になるの!」

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