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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章
「ちえ~。じゃあ、朝比奈! アタシの名前付けた薔薇、贈って~♡」
おねだりの矛先を変えたダリルに、
「ふふ。ちなみに、どんなお名前が宜しいのです?」
朝比奈はこの1週間ですっかり打ち解けた様子で、そう尋ねて。
「えっと~ “My goddess Darryl(僕の女神 ダリル)” も、イイし~。 “Princess Darryl(ダリル姫)” も捨てがたい~ンっ」
ゼブラ柄のミニワンピの身体をくねくねさせながら、うっとりするダリルと、
「お可愛らしいですねえ、ダリル様は」
にこにこと、銀縁眼鏡の奥の瞳を細める朝比奈。
この2人に限って心配はしていなかったが、まあ、とにかく上手くいっている様で良かった。
そして、もう一つ気付いたのが、
「わあ、素敵……」
視線の先にあったのは、ドアノブ。
元クリスのこの部屋で、自分の命を絶つ為に、ネクタイを引っ掛けるに至った忌々しい場所。
扉ごと替えられたドアノブは、アンティークガラスの持ち手で、まるで宝石のように可憐だった。
「綺麗でしょう……? 僕が、選んだんだ……」
クリスは少し自慢気に囁きながら、妹の細い肩を抱き寄せてきた。
天井から吊るされた小ぶりなシャンデリアの光を受け、ドアノブの精巧なカッティングがキラキラと輝き。
これからこのドアノブを目にしても、未だ胸の奥底に眠るどす黒い記憶など、微塵も思い出すことは無い筈。
この部屋に溢れ返る、自分を想う皆の暖かな気持ちと気遣いが、ひしひしと伝わってきて。
「うん。何もかも素敵だよ。本当にありがとう、クリス。ダリル、朝比奈……。私、何て言っていいのか……」
小さな顔に、幸せ一杯の微笑みを湛えたヴィヴィに、
「こちらこそ、ありがとう、ヴィヴィ……。 “ここ” に戻って来て、くれて……」
クリスはそんな言葉と共に、温かなハグをくれたのだった。
―――――――――
※ちなみに、Miss Peach hime(ミス ピーチ姫)なんて名前の薔薇もあるよ