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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
もちろん、双子が日本に滞在しているこの25日間、しっかり自分達のショーの番宣もしまくっていた。
「クリスもヴィヴィも、毎年 双子プログラムでTHE ICEを盛り上げてくれて。私も新しいプログラム作って、イギリスで初披露するね?」
そんな嬉しい事を言ってくれた浅田に、ヴィヴィは文字通り飛び付いて喜び。
そのヴィヴィの上から、クリスも飛び付いて(?)感謝の心を体現したのだった。
今年のTHE ICEは
7月15日(土)~16日(日) 名古屋
7月19日(水)~20日(木) 京都
7月22日(土)~23日(日) 大阪
以上、3都市を回るスケジュールだった。
その中の京都公演で、ヴィヴィは昨シーズンのエキシビション・ナンバーを滑ることにした。
映画「ピアノ・レッスン」より “楽しみを希(こいねが)う心”
作曲:マイケル・ナイマン
振付:篠宮 クリス
このエキシビは、ヴィヴィにとって宝物だった。
渡英してすぐの頃のヴィヴィは、リンクに行く以外は屋敷に籠り。
どうしても立ち昇ってくる鬱々とした感情を紛らわす様に、ピアノとヴァイオリンを掻き鳴らす日々で。
そんな妹にクリスが振付けてくれたのが、このプログラムだった。
“楽しみを希う心”
そのタイトルのピアノ曲は、ヴィヴィからしたら少し首を捻るくらい、胸が締め付けられる切なさを湛えていた。
『適当に曲に合わせて、滑ってみて……?』
クリスに言われ、ヴィヴィは素直に氷面で踊りだし。
それを双子の兄が少しずつ改良し、ポイントとなるムーブメントを新たに付け加えて完成させた。
衣装は――クリスは青を好んでいたが――結局 黒にし。
『まあ、「ピアノ・レッスン」だし……、ピアノの黒で……』
そう、人の良いクリスは納得してくれた。
絶え間無く轟くピアノのうねり。
それを捕らえる華奢な肢体は、すべての振付を必ず3度繰り返す。
両手を耳に添え、潮騒に仰ぐ仕草も、
着氷後の流れの膝の屈伸も、
スピンを彩る両腕のひらめきも、
全てを3度重ねていく。
一見しつこく思えるかもしれないが、
それもある時を超えると、観ているものに一種の快感を呼び起こさせる。