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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章     

 小さな音量で鳴った、その音楽に、

「ん? 何で着信音『It's a small world』?」

 きょとんとする円の問いに、

「へへ、何となく?」

 笑って誤魔化したヴィヴィは、ベッドから起き上がり。

 壁際のデスクに放置していた、スマホを取りに行く。

 相手は見当が付いていた。

(やっぱり……)

 メール差出人を確認した途端、ヴィヴィは心の中でそう困った声を上げた。



『Title:今日も一日 お疲れ様

 Letter:

 一昨日、真行寺と会合で会ってね。

 円ちゃんと一緒に、英国で世話になると言ってたよ。

 もうすぐ シーズンインするし、

 今の内に うんと羽を伸ばしておいで。

 おやすみ』


 
「………………」

(うわあプチストーカーさんすげえ情報網だなおい)

 小さい顔に能面の如き無表情を浮かべ、口汚く突っ込むヴィヴィに、

「どした~?」

 ベッドの上、肩肘を付いた円が、不思議そうに尋ねてきて。

「ううん、何でもない。さあ、寝よう寝よう~」

 素早くメールを削除し。

 スマホをマナーモードにしたヴィヴィは、ベッドへと駆け寄り、よじ登る。

「おう、オヤスミ~」

「おやすみぃっ」

 元気な就寝挨拶を交わし、ヴィヴィは消灯する。

 数分後。

 隣からは静かな寝息が聞こえてきて。

 すぐ傍にある大事な親友の存在に、安堵を覚えていた。

 目蓋を閉じれば、つい先ほど目を通した文面が、1文字も違わず再現されてしまい。

「………………」

 嘆息を噛み殺すヴィヴィの脳裏に、数日前に湧き上がった疑問までが蘇える。



『遠い異国にいる妹に、毎日メールを送るだなんて、

 一体、どういうつもりなのだろうか?』



 一見 無防備なその疑問に、

 暗闇の中、大きな瞳をすっと細まる。


 白々しい。
 
 もう解ってるくせに。


 匠海は算段を付けているのだ。

 あと もう一押しすれば、


 妹が己の術中に堕ちるであろうと――。
 

 そうでなければ、こんな面倒臭い事、あの兄がする筈も無い。

 そこまで解っているのなら、ぐずぐずしてないで、着信拒否をすればいいのに。

 なのにどうして、



 自分には、それが出来ないのだろう――?






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