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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
2023年6月16日(金)。
「ピチュピチュピチュ……」
春の日差しが穏やかに差し込む、ガラス張りのサンルーム。
大理石の床に鎮座する巨大なビーズクッションからは、何故か小鳥の鳴き声が。
「ピチュピチュ……ピチュ……?」
オフホワイトのビーズクッションが、不思議そうな囀りを上げ――
否、そこに上半身を埋もれさせた金の髪の女が、唇を尖らせて下手くそな鳴き真似を続けていた。
細い片腕が、20㎝ほど押し開けられたガラス戸へと伸び。
その先の中指が、日光に白さを際立たせながら、ガラス戸を更に押し広げた途端。
キィ……。
築年数を重ねた屋敷の上げた軋みに、パタパタと微かな羽音が重なり。
「……あ……、逃げちゃった……」
薄い唇から洩れたのは、心底残念そうな声音。
裏庭に遊びに来ていた見慣れぬ小鳥に対し、先刻から ご執心だった妹に、
隣のビーズクッションに胡坐をかいていたクリスが、ふっと吐息だけで苦笑する。
ポスンと軽い音を立て、顔をクッションに埋めたヴィヴィ。
しばらくそうしていたかと思うと、のっそりと身体を起こし、
膝立ちのまま、開けっ放しのガラス戸を閉じた。
6月とはいえ、オックスフォードの最高気温は20℃になるかならないかで肌寒い。
そのくせ日の入りは21時半なので、夕刻でも辺りは昼の様に明るいのだ。
「懐かせたいのなら、餌付けすれば……?」
クリスの指摘に振り返ったヴィヴィは、細い眉をハの字にする。
「リーヴが、駄目って……。裏庭がフンだらけになるのが、嫌なんだって」
リーヴ・アクランド。
昨年の5月 渡英してから雇った執事は、とても熱心に世話を焼いてくれるが、ちょっと潔癖のきらいがあるらしい。
ちなみにリーヴは、ロンドン郊外のオーウェンの屋敷(父の生家)で、毎年篠宮3兄妹の世話をしてくれていた執事だった。
「ふうん。じゃあ、僕を餌付けして……?」
開いていた書籍をぱたんと閉じたクリスは、そう囁きながら甘える様に片腕を妹へと差し出す。