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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
その手を取った途端、ヴィヴィの身体が軽く引っ張られ、
華奢過ぎる肢体を受け止めた兄は金の前髪越しに、妹と酷似した薄い唇を押し付ける。
「ふふ。何が食べたいのかな? クリスちゃんは」
くすぐったそうに笑いながら尋ねれば、
「…………コーヒー……」
視線を左右に彷徨わせたのち、クリスはぼそりと零した。
「それ、食べ物じゃないし……」
そう突っ込みながらも、クリスのおでこに可愛いリップ音付きでキスを返し、
立ち上がったヴィヴィは サンルームからリビング、ダイニングを通り抜け、キッチンへと向かった。
木の温もりが暖かな広いキッチンの隅、レトロなコーヒーミルに豆を入れ、手動で挽いていく。
ゴリゴリゴ~リ。
最初は堅いその音に合わせ、いつも口ずさむのは、
「♪むかしア・ラ・ブの偉いお坊さんが~ 恋を忘れた哀れな男にぃ~♪」
何故か、昭和の歌謡曲。
ついつい調子に乗り、結構な大音量で歌い続けていると、
「ヴィヴィ……、挽き過ぎ、注意だよ……」
遠くから、クリスの窘める声が響いてくる。
「あ! いかんいかん……」
どうしても芳しい豆の香りに乗せられ いつも挽き過ぎてしまうが、クリスは粗挽きを好むのだ。
慣れた手付きで2杯分のコーヒーをドリップしたヴィヴィは、サンルームへと戻った。
クリスは礼を言ってマグカップを受け取り、
「で、解った……?」
灰色の視線の注がれた先には、開いたままの分厚い書籍が置かれていた。
「うん。やっぱりクリスは、説明するのが上手だね~」
クリスの所属するカレッジ――セント・エドモンド・ホールの図書館から借りてきた経済学を扱った本を、柔らかなスカートに乗せたヴィヴィ。
ページを繰る兄が理解を計るために説明を求め、妹は素直に頷き、自分なりの考察も加味しながら解説を試みた。
「うん、シグナリングに関しては、その認識でいいよ……。ただ、ゲーム理論モデルの理解を深めるには、そうだね……この本……読んでみてごらん?」
そう言ってクリスは、ルーズリーフの隅に走り書きした書籍のタイトルをヴィヴィに手渡した。