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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章  

 恐るおそる その手を取ったヴィヴィを、ネイサンはぐいと引っ張ってベッドから降ろし。

 そして隙がありまくりのヴィヴィの耳たぶに、ちゅっと音を立てて吸い付いてしまった。

「……っ!? んな゛……っ???」

 薄い唇をパクパクさせながら、キスされた耳を両手で押さえるヴィヴィに、

「あははっ 新鮮な反応! やっぱり可愛いなあ」

「~~~っ!?」

 目の前で面白そうに笑う男を、顔を真っ赤にしたヴィヴィは、おちょくられて悔しそうに睨んでいた、が。

「う~~ん。アメリカとイギリスか……。アメリカと日本よりは近いけれど、遠距離恋愛かぁ~~」

 廊下の方へと向かいながら、そう独りごちるネイサンに。

(え……。ほんとの、ほんとに、私を異性として見てるの? てか、見えてるの……?)

 混乱を来した頭を捻りながら、ヴィヴィは部屋の主に続いて退室し、

 頼りない足取りで、元来た道程を戻っていく。

「………………」

 世の中には “つるぺた童顔” でも需要があるらしい――。

 そう、知りたくなかったことを認識してしまった、

 ヴィヴィ21歳の春(じゃなかった、初夏)――なのであった。
 





 7月23日(日)――THE ICE2023 大阪公演最終日。

 大トリを務める主催の浅田の前。

 暗闇の広がるリンクに、すっと落とされるスポットライト。

 躊躇いがちに響くピアノの音色と、バンドネオン(アコーディオンの一種)の後ろ髪を引かれる哀愁。

 今年の双子プログラムは――

 ミュージカル映画「ムーラン・ルージュ」より “ロクサーヌのタンゴ”。

 浮かび上がったのは、氷の上にしどけなくうつ伏せ寝そべる、1人の女。

 照明に透けそうなほど白い背中は剥き出して、前身ごろは大ぶりの黒レースから肌の色が透けて見えている。

 その下に続く真紅の柔らかなスカートから、華奢な太ももがちらりと露わになった。

と思ったら、何故か草むらに身を潜める しなやかな豹の如く、氷の上を這い始める。

 そして、その先に跪いていた男の黒パンツの踝を掴むと、

 激しい弦の和音と同時に、ざっと自分の上半身を引き上げる。

 暗いリンク全体が赤一色に照らし出され、

 こちらを見下ろしている男――クリスが、大きなリアクションで驚いてみせた。

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