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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
黒いスケート靴を己の股の間に挟み込んだ女――ヴィヴィは、その場にぺたりと座り込み、
憐憫を誘う仕草で、兄の顔を振り仰いでいた。
弦の低い響きに支えられ、高音のヴァイオリンが切なく鳴く。
細い頤(おとがい)に延ばされる、少し骨ばった指先。
人差し指が顎の輪郭を辿り、親指が真紅に染め上げられた唇の薄さを確認する。
『Roxanne――ロクサーヌ』
女の名を歌い上げる、どこかしわがれた男のテノール。
兄の指を従順に受け入れていた筈のヴィヴィが、くっと顎を上げて抵抗し、
黒とグレーのゼブラ柄シャツの首裏に手を添えると、兄に腰を支えられて立ち上がる。
その場でターンを挟みながら、白い両腕を大きく振り降ろして胸を反らせ、
未だ跪いて自分を見上げるだけのクリスを、顎を上げて挑発しながら見下す。
妹から視線を逸らさず、やおらゆっくりと立ち上がるクリスに対し、ヴィヴィはバックで滑り出し。
後を追って来たクリスに対し、時折 膝を折った後ろ足を跳ね上げ、
ちらりと後ろを睨みながら「もっと来て」と誘惑する。
捕まえようとする兄に、逃げる妹。
バックで助走に入りながら、真紅の薔薇を飾り結い上げた金の頭、ささやかな膨らみの下、くねらせる腰――と両手で辿り。
そして、同時に飛び上がった3回転アクセルに、盛大な拍手が鳴り響いた。
ようやく妹を捕まえたクリスは、互いの右腕をがっちりと掴み合い、
自由な左の掌を互いの胸上に添えながら、大きく2人で旋回する。
そのままヴィヴィの腰を引き寄せようとしたクリスに、妹は掌で広いシャツの胸を押し返し。
かざしたままのその掌――
小指から順に折り畳みながら、娼婦の如きふしだらな誘惑を当て付ける。
挑発に乗ったクリスは、今度こそ強引に細過ぎる腰を掴み取り、
やがてホールドを組んで、滑り出した。
前後を入れ替わりながら、密着して滑る双子。
途中、互いの脚を鍵の様に絡ませたり、相手の脚の隙間に己の脚を差し込んで素早く戻せば、そこここから驚きの声が漏れる。