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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章
『……嫌なのは最初だけです、お嬢様。
先程も天国を見たでしょう?
すぐに良くして差し上げます』
そう囁きながら伸ばされた手は、
藁にも縋る想いで、必死に握っていたペーパーナイフを――
ぞっと全身を襲った悪寒。
デニムビスチェの中、
冷や汗が つつと肌を伝っていく、気持ち悪い感触。
「……――っ ぃやっ」
ぎゅっと目蓋を閉じ、身を強張らせながら、
ヴィヴィが真っ先に、救いを求めたのは――
(お、お兄、ちゃん……っ 助けて……っ)
この場にもいない、
それどころか、
今や “他人の夫となった男”。
『いいかい、ヴィクトリア』
『お前がオックスフォードの屋敷で見たのは “俺” だ』
『俺はヴィクトリアが相手してくれなくて淋しくて、お前の下着で自分を慰めてた』
『驚いて逃げようとしたヴィクトリアを、俺は力ずくで抱こうとしたんだ』
『だから、お前は俺にしか触れられていないし、俺にしか抱かれていない』
『そうだよ。お前は俺以外の男を知らない。だって、ヴィクトリアは、俺しか愛していないんだからね』
確かに強引なやり方だったけれど、
それでも妹である自分の、身も心も救ってくれた、兄の言葉達。
脳裏に蘇えった大切な記憶に、やっとまともな思考回路が戻って来て。
「ヴィヴィっ」
自分の両肩を支えながら、覗き込んでいる男を見上げれば、
「ヴィヴィ? ねえ、大丈夫かい?」
デニス・ヴァシリエフが、心底 心配そうに確かめてくれていた。
「………………」
とにかく、自分の肌を直に触れられたくなくて。
彼の両手を細い肩から、おずおず退けた。
「わ、私……、男の人に興味、無いの……。ごめん……」
咽喉から何とか絞り出した言い訳は、思ったよりも しっかりとした声が出て。
「……え……? ヴィヴィ、それって……」
デニスは何か言いたげだったが、
「あの……。私、皆とホテル、帰る……」
振り返った先、まだ皆がそこに たむろったままで。
「うん……」