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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章
ヴィヴィは夕方、会場のリンクで滑る予定だったので、酒は控えアイスティーで我慢していたのだが。
♪世界~中 どこだって
笑いあ~り 涙あ~り♪
バックから小さな音量で鳴るものに気付き、すぐに中に手を突っ込んで止めた。
「ん? それって、日本語の『It's a small world』?」
スペインのハビエル・フェルナンデシ(32)の問いに、
「あ、うん。そうだね」
曖昧な相槌を返せば、
「てか、何で2番?」
隣りに座っていた羽生 結弦(29)が、不思議そうに首を傾げていて。
「へへ、何となく~」
本当に何となく選んだので、ヴィヴィはへらへら笑いながら、スマホに目を落とした。
Title:ありがとう
Letter:
匠斗の誕生日プレゼント、届いたよ。
はちみつクレヨン、凄く気に入ってる。
「び」「び」連呼しながら、ヴィヴィの絵を描いてた。
現在エディンバラは12時過ぎ――ということは、東京は同日の20時過ぎ。
添付された画像には、匠斗が小さな右手でクレヨンを握り、たぶん匠海の胡坐に乗せられているのだろう。
描かれた絵と一緒に写っていた。
水色の楕円に、その両端を結ぶ茶色の横線。
その上に、5個ほど殴り書きした点。
(こ、これは、似顔絵……?)
絵が壊滅的にド下手なヴィヴィに言われるのも、匠斗には癪だろうが。
まあ1歳児の絵なんて、こんな物なのかもしれない。
それよりも気になったのは、匠斗の左手が掴んでいる白いもの。
(これって……)
長い耳の縫いぐるみの瞳は灰色で。
そしてちらりとだけ映り込んでいるのは、それが纏った洋服。
黒のシフォンから赤のスパンコールが透けるそれは、
昨シーズンの、ヴィヴィのFS『LULU』バージョンのウサギさん。
「………………」
自分が贈った覚えのないそれが、匠斗の玩具になっているという事は――
そこまで考えたヴィヴィは、そこで思考を放り出し、スマホをバックに突っ込んだ。