この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第6章
匠海がどれだけ、自分に関連するものを集めていようが、
そこから、どれだけ妹の事を心に留めていて、家族の一員として慈しんでくれていると伝わってきても。
それでも、
画像から滲み出ていたのは、兄夫婦の “暖かな家庭” の雰囲気。
何とも言えない淋しさと虚しさを紛らわそうと、目の前にあるグラスからセロリスティックを摘み、シャクシャク咀嚼してると、
「ウサギ、みたい……」
真向かいに腰かけていたクリスが、腕を伸ばして撫でなでしてくる。
「ん」
ニンジンスティックを摘み、クリスの口元へ持っていけば、
同じく無表情で ぼりぼり咀嚼し始めた双子の兄に、
「クリスのほうが、ウサギっぽいわ」
「この無表情、クセになりそうっ」
と、周りの女子にウケていた。
大きな瞳を細めて皆を見つめながらも、
頭の中にはどうしても、先ほど目にした画像が ちらちらと過ぎって。
(解って、はいるの……)
匠海には “彼の家庭” があって、
それは妹のヴィヴィとて、踏み込んではならぬ場所。
もう、いい加減に理解しなければならない。
どう転んだって、兄は自分の元へは戻って来てくれはしないと。
そう、解ってはいるのに――。
「ふぅ……」
薄い唇から無意識に漏れた嘆息。
けれど、そんなものを打ち消すくらい、賑やかな歌声が辺りに響き始めていて。
それは、英語・スペイン語・フランス語・ロシア語・ラトビア語・日本語と様々だったが、メロディーはただ1つ。
「♪It's a small world after all
―世界は せ~まい
It's a small world after all
―世界は お~なじ
It's a small world after all
―世界は ま~るい
It's a small, small world
―ただ ひ~と~つ~♪」
どうやら、ビールで良い気分になったらしい面々。
昼間っから『It's a small world』を合唱し、盃を揺らしており。
「ただの酔っ払い、ですやん……」
世界各国の名スケーターを、関西弁で一刀両断したヴィヴィ。
もちろんすぐさま、シラフで合唱の輪に加わったのだった。