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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第1章
(う゛~~、何度やっても、恥ずかしいぞ……)
それはきっと、双子の兄も同じ事。
馬乗り状態の自分を見つめる灰色の瞳は、少し潤んでいて。
互いに照れを隠す様に視線を反らし、ヴィヴィはクリスの腰の上から起き上がる。
『Roxanne――ロクサーヌ』
テノールのしゃがれ声が、最後の歌声を響かせる中、
片手を繋ぎ合って互いに正面に開いた双子。
クリスに手を引かれ、ゼブラ柄のシャツの首に片腕を回した妹は、
ぴょんと兄の片膝の上に、正座の状態で飛び乗る。
その勢いを保ったまま、まるで飛び蹴りの如く、折り畳んでいた外側の脚を大きく振り上げて飛び上がり、空中で開脚し。
開脚したまま氷の上に降ろされたヴィヴィは、腰を落としたクリスとホールドを組んだまま見つめ合い、フィニッシュした。
その途端、赤い照明に彩られたリンクに響いたのは、
耳をつんざく程の歓声――もとい悲鳴と拍手。
それは今迄の双子プログラムでは無かったもので。
21歳となり少しは大人へと成長した双子が演じて魅せた、アルゼンチン・タンゴに対する賞賛だった。
「やった……っ」
「うん……」
震えた小声で囁き合った双子。
1組の男女が互いを燃やし尽くしながら生み出す、噎せ返る様なタンゴの熱情。
踊り終えると一瞬にして立ち消えてしまう “虚構の関係” が、
ヴィヴィには何だか、儚く美しいものに思えて――。
その気持ちのまま、双子の兄を見上げれば。
自分を見下ろすクリスの瞳は、何故か苦しそうに歪んでいた。
ふっと暗転するリンク。
目の前の双子の兄の顔は見えなくなったけれど、
「……ヴィヴィ……。ずっと……、ずっと、一緒に、いよう……っ」
自分を胸に抱き寄せるクリスの身体と、囁かれる声は震えていて。
「……クリ、ス……?」
躊躇いがちに、兄の名を呼ぶ妹。
けれど、
『Thank you、篠宮Twins――! さあ、みなさん。最後の最後を飾るのは、我らが浅田 真緒――!!』
そう、次を告げるアナウンスに急かされ、双子はリンクサイドへと戻って行ったのだった。