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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章      

「………………」

 一瞬、その場に固まっていたヴィヴィ。

 しかし、クリスの後ろ姿が離れている事に気付き、慌ててカートを押してその後を追い駆ける。

 大きな荷物を運びながら、時折 ヴィヴィだと気付いた人々ら声を掛けられるのに、愛想笑いを返し。

 しかし、薄い胸の奥では、違う事を思っていた。

(行く訳、無いでしょ……)



 今から3週間と少し前。

 兄と最後に関係を持った夜。

 自分は身も世も無く、強請ってしまっていた。

『~~っ おにぃちゃん、の……、いっぱい、ほしぃの……っ』

 自分が兄を抱いていた筈なのに、

 いつの間にか、主導権を奪われ。

 そして、

 匠海の愛の言葉と、己の奥深くに注がれる欲望の証しに、

 自分は性懲りも無く、

 紛れもない “悦び” を感じていた。



 このままでは、いけない。

 本当に、自分達は引き返せないところまで来ている。



 無意識に寄った、眉間の陰影を濃くしながら、

 ヴィヴィは胸の中で、兄にひたすら問い掛ける。



 どうして……?

 どうしてなの、お兄ちゃん。

 どうして “わたし” ……なの……?



 東京 と オックスフォード。

 こんなにも距離が離れれば、

 また以前と同じ様に、気持ちも離れられる。
 
 そう――思って……。

 だから自分は、

 兄との連絡を、一切絶ったというのに――



 到着ロビーから外へと出れば、エディンバラよりは暖かな外気に包まれ。

「クリス様、ヴィクトリア様。お疲れ様でした」

 車留めで主を出迎えた執事は、柔らかな微笑みを寄越しながら、

 手早く2人分のスーツケースを、車へと積み込んでくれた。

「ただいま……。帰ったら、朝比奈の お味噌汁、飲みたい……」

 後部座席に乗り込み、そんな可愛い事を言うクリスに、朝比奈は「喜んで」と相好を崩し。

 そして、

「お嬢様? どうなさいました?」

 開けて貰った車のドアから乗り込まず、突っ立ったままのヴィヴィへと、そう声を掛けてきた。

「………………」

 何も発さず、ただ斜め掛けしたポーチのベルトを、両手でぎゅうと握り締めるヴィヴィ。

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