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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章
「お嬢様……?」
「ヴィヴィ、どうしたの……?」
心配そうに確かめてくる執事と、双子の兄に向けて、
薄い唇から零れた “言葉” は――。
ヒースロー空港駅 から サウス・ケンジントン駅へ。
そこから地下鉄へ乗り換え、ヴィクトリア駅へと降り立ち。
「………………」
地下から、赤い二階建てバスと乗用車、沢山の人々が行き交う喧噪へと出て来たヴィヴィは、
一瞬、その場で立ち尽くし。
斜め掛けにしたポーチバック一つという軽装備で、黒の膝丈チュールスカートから伸びる細い脚で、西へと向けて歩き出す。
誰かに咎められた訳でも無いのに、
今朝、兄が発していた、
『エステに美食に美酒。用意して待ってるよ』
そんな誘い文句を、引き合いに出し。
(だ、だから……。エステして、良いもの食べたら、帰るんだもん……)
そう、心の中で言い訳しながら、
ゆっくりゆっくり、バッキンガム宮殿へと続く通りを歩いていたのに。
数分もしない内に、ヴィヴィはあるホテルの目の前に立っていた。
(ほ、本当に、来ちゃった……)
木の温かみ――と言うよりは、百年超の築年数を誇る、重厚な木造のホテルのエントランス。
若干21歳の自分には不釣合いなそこで、ポーチのベルトを握りながら躊躇していると、
「こんにちは、レディー。Ms.篠宮でいらっしゃいますね?」
燕尾服を纏ったホテルマンに、握手を求められて、
「え……? あ、はい……」
この期に及んで、ホテルに入るべきか躊躇っていたヴィヴィは、
自分の名を呼ばれ、思わず手を出してしまっていた。
「Mr.篠宮より、妹様がお越しになるとお伺いしております、どうぞお入り下さいませ」
そうして、ホスピタリティー溢れるホテルマンに促され、
ヴィヴィはあれよあれよという間に、ホテルに足を踏み入れてしまっていた。