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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章
そこは、伝統的なロンドンのクラブを思わせる、閑静な高級ホテル。
28しか客室がないらしく、その全てが建物の最上階の5階に位置し。
エグゼクティブ・ラウンジ、レセプション、ライブラリーが一緒になったそこは、
まるで「我が家に帰った」と錯覚する温かみがあった。
「……あ……」
高い天井からシャンデリアが吊るされた、ラウンジの一角。
ある男の姿を認め、ヴィヴィは思わず声を漏らしていた。
暖炉の傍、キャメルの革張ソファーで長い脚を組み、
他の宿泊客と思われる年若い女性と、シャンパンを酌み交わしていたのは、他でもない匠海。
「………………っ」
デニムビスチェに包まれた薄い胸の奥、
ごとりと、鈍い音が鳴っていた。
どうして。
どうして、私……、
何度も同じ過ちを……っ
自分の愚かさ加減に、思わず反吐が出そうになり。
回れ右をして帰ろうとしたヴィヴィを引き留めたのは、意外にも案内してくれているホテルマンだった。
「我がホテルは客室数も少ないゆえ、アットホームなおもてなしをお約束致します。ゲスト同士も意気投合され、その後も有益な交友関係を持たれる方が、多いようですよ?」
こちらを振り返り、誇らしげに微笑んでくるホテルマンに、
見事一瞬にして、毒素を抜かれたヴィヴィ。
「……は、はあ……」
そう呟きながら、また先を歩き始めた燕尾服の後を、のろのろと着いて行けば、
「Mr.篠宮。妹様がご到着なさいました」
ホテルマンの呼び掛けに、さっとこちらを振り返った匠海。
端正な顔に ほんの一瞬だけ宿ったのは、
心の底から安堵した、無防備過ぎる表情で――
「………………」
兄のその反応が意外過ぎて、その場に立ち尽くしていると。
革張りの1人掛けソファーから、腰を上げた匠海は、
「やあ、良く来てくれたね、ヴィヴィ」
そう嬉しそうに笑いながら、金色の頭をぽんぽんと撫でたのだった。