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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章      

 腰を浮かし、薄い唇をそこへと押し当てようとした。

 その瞬間、

「……ヴィクトリアは、咽喉仏、好きだな……」

「………………?」

 兄が発した言葉に、浮かしかけていた腰を止めれば、

 こちらを見下ろしてくる匠海の瞳が、強張っているのに気付いた。

「解ってやってるんだろう?」

「え?」

 意味が分からず、微かに瞳を眇めたヴィヴィに、

 匠海は静かな声で続ける。

「 “咽喉仏” の英訳は “Adam's Apple(アダムの林檎)” ……」

 灰色の瞳が当惑に揺れる、目と鼻の先、

「お前が15歳の時に、俺に “無理やり味あわせたもの” 」

 匠海の形良い唇から零れた言葉に、大きな瞳がはっと見開かれる。

「………………っ」



『物事の善悪も、つかないのか……? 

 妹が実の兄のこんなところに触れるなんて、

 過ち以外の何物でもないだろっ!』



『やめろっ! どうしてこんなことをする?

 ヴィヴィは こんな力ずくで物事を解決するような子じゃ、

 なかっただろうっ!?』



「……やめ、て……」

 蚊の鳴くような細い懇願にも、

 兄は言葉を止める事は無く。

「 “善悪を知る果実” ……」

 旧約聖書に記された象徴を囁く声と、

 6年前の匠海が叫ぶ必死の静止が、ヴィヴィの鼓膜をも震わせていた。



『やめろっ! ヴィヴィっ ……俺達は、正真正銘、

 血の繋がった兄妹なんだぞ――っ!!』



 一瞬脳裏に過ぎった、

 両腕を拘束され、苦しそうに顔を歪めた匠海の顔に、

「……――っ やめて、お願いっ」

 咄嗟に掠れた声で叫んでいた。

 せめて両手で耳塞いで、目の前の匠海の言葉だけでも、全て排除したいのに、

 片手を掴まれたままでは、それも叶わず。

「……やめて……っ ぃや……」

 ヴィヴィは必死に、言葉で兄に哀願する。


――――――

※意味不明の読者様 → トップページの作品説明

※イブと蛇に唆され、リンゴを慌てて飲み込もうとしたアダムが、咽喉に詰まらせたのが、咽喉仏の始まりという俗説
 実際は “善悪を知る果実” はリンゴとは違う果実らしい(笑)

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