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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
灰色の瞳が、己に失望して暗く濁る。
“あの人” の目にだらしなく映ろうが、
女を捨てているように映ろうが、
もうどうだっていいじゃないか。
いや、むしろ、そちらのほうが好ましい。
自分なんて、幻滅されればいいんだ。
そう吹っ切り、後部座席から大量の荷物を下ろしたヴィヴィは、クリスと連れだって屋敷の玄関へと向かった。
「お帰りなさいませ、クリス様、ヴィクトリア様」
素晴らしいタイミングで青い玄関扉を開いてくれたリーヴに「「ただいま」」と声を掛けた直後、
「ヴィ~~ヴィ~~っ!!」
3ヶ月半前にも国別対抗戦で会ったのに、歓喜の声を上げて寄って来たグレコリーの腕の中には、もう何もいなくて。
溺愛する娘をハグしようとしてくる父に、
「待って! とにかく、シャワーを浴びさせてっ!!」
年頃の娘は、そう言って一歩下がった。
「え~~っ!? そんなの気にしないよぉ~~?」
父親のくせに妙に甘えた声を上げて、再度ハグを試みてくるグレコリーに、
「こ、こっちは気にするのっ!」
そう断ったヴィヴィは、両手で分厚い胸を押し返し、階段を駆け上って逃げた。
「ヴィ~ヴィ~っ 瞳子さんも来てるのよ? ちゃんとご挨拶してからになさい」
呆れた様子で娘を窘める母の背後、玄関ホールにひょっこり姿を現したのは、上の兄の妻・瞳子で。
「おかえりなさい、ヴィヴィちゃん。お邪魔してます」
1年3ヶ月ぶりに目にしたその人は、やはり美しくて優しくて。
「お久しぶりです! えっと、ごめんなさい。速攻シャワー浴びてくるので、ゆっくりしてて下さいねっ」
改まって挨拶したヴィヴィに、瞳子は美しい黒髪を揺らしながら頷き、聖母の如き微笑みを浮かべていた。