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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章
9月5日(火) 朝6時過ぎ。
オックスフォードSCのリンクサイドには、前日エディンバラから帰省したクリスがいた。
そして、
「あれ……? 帰って来てた、の……?」
灰色の瞳を瞬きながら、そう問うた相手は、
「ん? ああ、4時発のTUBEで帰って来て、一旦荷物を取りに戻って、そのまま来た~」
きちんとスポーツウェアを身に着けた、双子の妹だった。
ちなみにTUBEとは、オックスフォード・チューブというバスのこと。
赤い2階建てバスで、朝は4時発 から 夜は3時発 まで、ロンドン ⇔ オックスフォード間を行き来している。
(↑これ、本当。24時間営業だ、すげえ……。by作者)
おそらく3時半には起き、4時から1時間半もバスに揺られ、ロンドンから弾丸で戻って来たであろうヴィヴィに、
「根性、ある……」
クリスは無表情ながらも、驚いていた。
「ふふ、知らなかったの?」
金色の長い髪を、手櫛で無造作に纏める妹に、
「知ってたよ……。おかえり、ヴィヴィ……」
少しほっとした声音で囁いた兄は、片腕を伸ばし、軽く細腰を抱き寄せた。
「ん。ただいま」
軽くハグし返したヴィヴィ。
観客席に腰掛けると、スケート靴へと脚を通し、慎重に靴紐を縛り上げていく。
匠海のロンドン滞在先を知った時から、こうするつもりだった。
41HOTEL の立地するバッキンガム・パレス・ロードは、好都合にもTUBEの発着地。
熟睡する匠海を起こさぬ様、部屋を後にしたヴィヴィは、
300mも離れていないバス停留所から、オックスフォード行きのバスに乗り込めば良いだけだった。
「おや、ヴィヴィも来ていたのかい?」
背後から掛けられた声に、
「あ、おはようございます。コーチ」
「おはようございます……」
スケート靴を履き終えたヴィヴィとクリスは立ち上がり、ショーンコーチに挨拶する。
「ちょうど良かった。2人とも、22日(金)と27日(水)に、NHK杯に向けてのリハ、やるからね」
「「はい」」