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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章
まさかの妹からの拒絶に、電話の相手は一瞬、黙り込んでいたが。
『こっちに来られないなら、俺が行くが? 顔を見て、話だけでもしたいんだよ』
更に踏み込んだ要求に、ヴィヴィは完全に押され気味で、しどろもどろになってしまう。
「そ、そんな……。来られると、困る……」
何故なら。
昨日、自分はロンドンの空港で、クリスと迎えの執事に対し、
『ロンドン市内に用事があるの。もし遅くなったら、オーウェン邸にお世話になるから』
そう断わって、昨夜の内にはオックスフォードに戻らなかったのだ。
もし今、匠海がここへ訪ねて来たら、
きっとクリスも朝比奈も、自分の吐いた嘘に気付き、
“どうして嘘を吐かざる得なかったのか” を、瞬時に悟るだろう。
スマホを握る右手に、冷たい汗をかき始めているのに気付き、
左手で持ち直し、そちらの耳を当てた途端、
『じゃあ、レッスンが終わるのは、何時?』
そう問われて。
ヴィヴィは馬鹿正直に答えてしまった。
「……22時頃……だけど……」
『近くで待ってる』
(そんな……)
「お兄、ちゃん……」
『じゃあね』
有無を言わさぬ強さで、強引に通話を終わらせた兄。
次いで聞こえた、虚無感を煽る電子音に、スマホを耳から離し。
そのままずるずると、扉の足元に蹲ってしまった。
どう、しよう……。
どうしよう。
もし、このままお兄ちゃんを無視したら、
本当にこの屋敷へ来てしまうかも知れない。
でも、だからと言って、
また、お兄ちゃんと顔を合わせれば、
きっと再び、私はあの男の言動に、
簡単に振り回されてしまう。
『馬鹿。「セフレなんかでは嫌だ」っていう意味だっ』
昨夜の兄の言葉が、脳を侵す。
じゃあ一体、ヴィヴィが “何” になれば、
匠海は満足してくれると言うのだろうか――?