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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章
大きな灰色の瞳が、限界まで見開かれたかと思えば、
やがて苦し気に細まり、ぬるい涙を滲ませる。
知ってる。
そんなこと、本当は、
生まれた時から知ってる。
でも、そんな事言われたって、
私はもう、お兄ちゃんに何にもしてあげられない。
貴方を拒み続けて、
“お兄ちゃんのもの” に成らない様に、する事くらいしか、
私に出来る事は、もう無いというのに――
絡ませたままの指がやんわりと解かれ、
その隙に、ふいと顔を背けたヴィヴィ。
けれど、すぐに大きな掌に両の頬を包み込まれ、また兄を受け止めさせられてしまう。
「……おにぃ、ちゃ……っ」
未だ焦燥を滲ませる切れ長の瞳に、小さな顔がくしゃりと歪む。
掌が形作る心地良い繭の中、
暖かな体温に涙腺が刺激されて、零れそうになる涙を必死に堪えていた。
どうして?
何で解ってくれないの?
好きだから、拒むの。
愛しているから、他の人と幸せになって欲しいの。
だって、
だって “私” じゃ――
「ヴィクトリア……」
ゆっくりと自分へ覆い被さってくる、大きな影。
しかしそれが、一直線に唇へと降りてくるのを察知した途端、
「やっ!」
細い拒絶の声を上げたヴィヴィは、無意識に両腕を持ち上げていた。
昨夜、どんなに激しく抱いてきても、
妹が絶対に赦さない “口付け” だけは、強要しては来なかったのに――。
伸し掛かってくる逞しい胸を、何とか押し返す細い両腕。
しかし、次の瞬間。
薄らと汗を滲ませていた胸板に、突いていた右手が滑った。
「………………っ」
微かに息を呑む声に、ぱっとふり仰げば、
その目に留まったのは、
美しく鍛え上げられた筋肉を覆う、色素の薄い肌に走った、6cm程の赤い引っ掻き傷。
胸から鎖骨へと刻まれたその痕に、瞬く間に全身の血が引いていく音を聞いた。
「わ……わた、し……」
自分の仕出かした失態に、恐怖か自己嫌悪か、判別の付かない悪寒が走って。
けれど、覗き込んでくる兄の顔は、心底 不思議そうだった。