この作品は18歳未満閲覧禁止です
![](/image/skin/separater27.gif)
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第2章
![](/image/mobi/1px_nocolor.gif)
階下から届くのは、和やかな談笑の声色。
父の、母の、幸せそうな笑い声。
クリスの、いつも通りの話し声。
瞳子の、柔らかだけれど芯の通った声。
時折、むずがる高い声音は、きっと、
まだ写真でしか目にしていない、兄の子供。
そして、時折届く笑い声は――匠海自身の声。
1年3ヶ月ぶりに耳にした少し低めのその声音に、全身がぞっと粟立った。
「……――っ」
紺のデニムの横、両の拳がぐっと握り締められる。
ああ、無理だ。
無理だ。
まだ全然、無理だ。
1年超という時を経ても、自分は全然、吹っ切れてなんかいない。
あの人の声が鼓膜を震わせるだけで、目蓋がじんと痺れる。
一つ屋根の下にいると思うだけで、震えて脚がすくむ。
出来る事ならば、このまま この場所から逃げ出してしまいたい。
「お嬢様? どうされました?」
自分の後ろ、控えていたリーヴが控えめに問うて来て、
その声にさえ、ヴィヴィはびくりと竦み上がった。
「……お嬢様?」
「ううん、何でも無いの」
咄嗟に唇から出た声は、意外にもいつも通りのもので。
その途端、ヴィヴィは気付いた。
(大丈夫……。 “顔” さえ見なければ、大丈夫……)
匠海の結婚式の直前、その顔を見たのが最後。
ヴィヴィは兄の姿を認めても、決して顔だけは見ない様にしてきた。
一生、兄の “顔” を見なければいい。
そうすれば、最低限の兄妹としての会話なら、自分は出来る。
きっと、出来る。
ううん。
しないと、いけないのだ。
もう一度、拳を握り締めたヴィヴィは、しっかりとした足取りで階段を下り。
そして、開け放たれたままだった、リビングに続く戸口に立った。
「あ、ヴィヴィ。おっそ~い!」
目敏く見つけたジュリアンが、腰掛けていたソファーから、身を捩りながら声を掛けてくる。
「ヴィヴィ! My Sweet Bambi! ほら、こっちおいで~っ」
ばっと立ち上がったグレコリーが、「こっちおいで」と言いながらも、自分から寄って来て娘を胸に抱き寄せた。
![](/image/skin/separater27.gif)
![](/image/skin/separater27.gif)