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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第7章
「今日の便で、帰るの?」
屋敷からは死角になる、ブロックの前で尋ねれば。
「ああ。寂しい?」
「……ちょっとだけね」
寂しいかと聞かれれば、寂しいかも知れない。
だって、つい先刻までその暖かな胸に、抱っこされていたのだから。
「ちょっとだけ、って顔には見えないけれどね?」
「………………」
眉尻を少し下げた匠海の言葉に、ヴィヴィは何も言えなくなり、唇を窄めてしまった。
「また連絡するから、電話に出て?」
今迄はメールだったのに、これからは電話を寄越すらしい。
「……「嫌」って言ったら?」
どうしても可愛くない返事を返してしまう妹に、
「屋敷の固定電話に電話してやる」
兄は負けじと、にやあと悪い貌で嗤って見せる。
「……はいはい」
本当にやりかねそうなので、大人しく言う事を聞く事にしよう。
「じゃあ……」
くるりと踵を返したヴィヴィは、そんな軽い別れの挨拶で、スタスタと屋敷へ向かい始めたが。
若干 後ろ髪を引かれ、ちらりと振り返った。
案の定、妹が屋敷に入るまで見守る気だったらしい兄は、数秒前と同じ場所に突っ立っていた。
「お兄、ちゃん……」
「ん?」
肌寒いのか、両手をポケットに突っ込んだ匠海は、嬉しそうに相槌を返してくる。
何故か「ありがとう」という言葉が、咽喉元までせり上がって来ていたが。
(「ありがとう」って、何が……?)
自分でも変な言葉だと思い、細い肩を竦めたヴィヴィ。
「……何でも、ない」
「そうか」
切れ長の瞳を細め、笑みを深くした匠海を一瞥し、
ヴィヴィは今度こそ、小走りで屋敷へと戻って行ったのだった。
鍵を開けて中に入り。
抜き足差し足忍び足――で、屋敷の右側に位置する2階の私室へと上がる。
そして「まさか、もういないよね?」と独りごちながら、窓から外を見下ろすと。
「………………」
ひょっこり窓から顔を覗かせた妹に、安堵の表情を浮かべた匠海が、
ヴィヴィから見える位置に移動して、見守っているのに気付いた。