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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章    

 義姉は幸せになる為に、兄との婚姻を決断した筈なのに。

 そして、愛を貫いて子供までもうけた筈なのに。

 なのに、いつか、

 自分という存在が、瞳子と匠斗を苦しめる日が来る可能性だってある。

 “責任” と “代償” 

 その2つの枷が、ヴィヴィに “愛する人と再び歩み始めた人生” という歓びを、素直に覚えさせてはくれない。

 兄の家庭を壊す結果に至る危険性。

 そして事実が明るみになった際には、

 信じていた夫の “不義” と “近親相姦” という二重の裏切りに、

 瞳子は立ち直れない程に、心の傷を負うかもしれない。

 他人の人生への “責任” と “代償”。

 今の自分に果たして、どれ程の償いが出来るというのだろうか――?



 兄のすべてを受け入れて、

 利己的な自分も認めて、

 腹を括って “愛人として” 生きていく。

 そう、決意を固めても。

 それでも簡単に切り替えられるほど、ヴィヴィは器用でも強くも無かった。





 結局、読書をする気にはならず、3冊 本を借りたヴィヴィは屋敷へと戻り。

 クリスと一緒に、朝比奈の用意してくれたランチを摂ると、1人防音室へと向かった。

 壁際の書棚から譜面を選び、漆黒のグランドピアノの準備を整え、

 いざ弾こうと両手を鍵盤にかざした途端、過去の自分がふと思い起こされて。

「…………はぁ」

 微かに嘆息したヴィヴィは、半ば諦めの境地で広げていた譜面を閉じた。

 そうして奏で始めたのは、昨シーズン、馬鹿みたいにそればかり弾いていた曲。

 オペラ『LULU(ルル)』からの交響的小品より “バリエーション”。

 その難解な変奏曲を、ヴィヴィは全て暗譜していた。

 そりゃあそうだ。

 この曲を弾きながら、この曲で滑りながら、

 自分自身を殺し続けていたのだから。

 3分半程の曲を弾き終えたヴィヴィは、ある事に気付いてしまい、ぐったりとうな垂れてしまった。

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