この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
義姉は幸せになる為に、兄との婚姻を決断した筈なのに。
そして、愛を貫いて子供までもうけた筈なのに。
なのに、いつか、
自分という存在が、瞳子と匠斗を苦しめる日が来る可能性だってある。
“責任” と “代償”
その2つの枷が、ヴィヴィに “愛する人と再び歩み始めた人生” という歓びを、素直に覚えさせてはくれない。
兄の家庭を壊す結果に至る危険性。
そして事実が明るみになった際には、
信じていた夫の “不義” と “近親相姦” という二重の裏切りに、
瞳子は立ち直れない程に、心の傷を負うかもしれない。
他人の人生への “責任” と “代償”。
今の自分に果たして、どれ程の償いが出来るというのだろうか――?
兄のすべてを受け入れて、
利己的な自分も認めて、
腹を括って “愛人として” 生きていく。
そう、決意を固めても。
それでも簡単に切り替えられるほど、ヴィヴィは器用でも強くも無かった。
結局、読書をする気にはならず、3冊 本を借りたヴィヴィは屋敷へと戻り。
クリスと一緒に、朝比奈の用意してくれたランチを摂ると、1人防音室へと向かった。
壁際の書棚から譜面を選び、漆黒のグランドピアノの準備を整え、
いざ弾こうと両手を鍵盤にかざした途端、過去の自分がふと思い起こされて。
「…………はぁ」
微かに嘆息したヴィヴィは、半ば諦めの境地で広げていた譜面を閉じた。
そうして奏で始めたのは、昨シーズン、馬鹿みたいにそればかり弾いていた曲。
オペラ『LULU(ルル)』からの交響的小品より “バリエーション”。
その難解な変奏曲を、ヴィヴィは全て暗譜していた。
そりゃあそうだ。
この曲を弾きながら、この曲で滑りながら、
自分自身を殺し続けていたのだから。
3分半程の曲を弾き終えたヴィヴィは、ある事に気付いてしまい、ぐったりとうな垂れてしまった。