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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
20歳の1年間。
自分はスケートで新たな挑戦をし。
かつ
“2人の自分” を殺し続けたけれども。
実際のところ、日常では何もしていなかった気もする。
必死に考えて、色んな感情や辛い現実と向き合って。
そうしていたような気もするけれど。
今から思い返してみれば、
ただただ、じっとしていただけの様な気もする。
手負いの獣が微動だにせず、自然治癒を待つように、
ただただうずくまって、胎児のように自分を抱き締めて、
時間が自分を癒してくれるのを、
ひたすらじっと耐え、待ち侘びていただけ。
要するに、
結局は “何も考えていなかった” のだ。
考えるのが怖かった。
襲ってくる孤独・虚無感・喪失感に耐え忍ぶだけで、
もう、20歳のヴィヴィは一杯いっぱいだった。
そうして “何も考えていなかった” 結果が、現在の状態なのだろう。
だから、
自分は1年以上経っても、未練たらしく匠海の事を吹っ切れないでいるし、
兄にも同じような気持ちを抱かせたまま、その場で足踏みをさせてしまっているのかも知れない。
もはやピアノを弾く気も失せ。
手早く片したヴィヴィは、朝比奈の姿を探した。
ランチの片付けを終えた執事は、どうやら庭仕事を始めたらしく。
裏庭にその姿を認めたヴィヴィは、私室にツバが広めの麦わら帽子を取りに戻った。
「朝比奈」
いつも纏っている黒のジャケットを脱ぎ、茶のエプロン姿の執事は、
紺色のリボンが清楚な帽子を被った主を振り返り、微笑みを浮かべた。
「お嬢様、もしや “お手伝い” ですか?」
「うん。何をやればいいかな?」
この屋敷の管理と、双子とダリルの世話。
それを1人で熟すのは大変と、皆が出来る範囲で朝比奈を “お手伝い” していた。
「それでは、グローブを差し上げますので、落ちた葉を拾って頂けますか?」
「は~~い」
素直に返事したヴィヴィは、園芸用のグローブをはめると、薔薇の根元にしゃがみ込んだ。