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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第8章
ちなみにロンドンのオーウェン邸で、祖母・菊子のガーデニングをちょこちょこ手伝っているので、
その手際は、結構手馴れているのだ。
「秋剪定は、もう終えたの?」
「ええ、1週間前に。40日後には、きっと美しく咲き誇ってくれる事でしょう」
害虫が付いていないか、注意深く株を確認していく朝比奈をちらりと見上げ、ヴィヴィはにっこりする。
「私、秋の薔薇 大好き。ゆっくり開花してくれるし、色も鮮やかで」
「私もですよ。秋咲のものは春咲のものよりも、素晴らしいと言われますね」
柔らかな微笑みを湛え、同意したのも束の間。
「ただ、涼しくなると、病害虫が一雨ごとに増えていくのが、難点でして……」
銀縁眼鏡の奥の瞳を曇らせ、ぶつぶつと呟きながら、薔薇に向き合う朝比奈。
松濤の篠宮邸では行っていなかったであろう、庭園の手入れ。
それを結構手慣れた様子で熟しているのは、菊子に教えを乞うているのと、松濤のガーデナーを質問攻めにしているかららしい。
(朝比奈、英国での生活、充実してるみたいで、良かった……)
自分のせいで、急遽 日本からこちらへ異動する事になってしまって。
それでも毎日、生き生きと楽しそうに仕えてくれる朝比奈。
ちなみに彼の両親はフランスに定住しているので、双子が試合等で長期に留守をする際は、そちらへ行きやすくもなったと、執事にとってもメリットがあったらしい。
「あ、そうだった……」
枯葉を拾い集め、雑草もむしり終えたヴィヴィは、はたと我に返った。
自分は用があって、朝比奈を探していたのだ。
「どうなさいました、お嬢様?」
「あ、うん。後で、私の昨年の確定申告書、出せるかな?」
立ち上がりながら、尋ねたヴィヴィに、
「勿論です。原本が宜しいですか?」
朝比奈がそう確認してくる。